好き、やねん。 (ページ16)

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リリーside

電車が、止まった。
見ちゃいけん。見ちゃ………………。
ああ、無理や。やっぱ、めちゃくちゃかわいい顔しとる。

見たら好きになってまうやろな思った。好きになって止められんなるやろな思った。それでも、見てしまって。彼女と目が合った途端、何も考えられなくなった。
彼女のかわいさに夢中で気づかんかったけど今日は1人みたい。彼氏もおらんのやったら少しぐらい許してほしい。

彼女を見つめたはいいもののそこからは何も考えてなくてどうしようかと思っていると少しして彼女が動き出し、目の前にスマホを突き出した。
画面に映るはQRコード………。
なんで？俺なんかと、？彼氏おるんやから、男に困ってないんやから、。

「交換………してほしい、です……。」

彼女が、初めて彼女と会った時のように耳まで紅く染めながらそう言った。
その瞬間、電車が揺れ、彼女のさらりとした髪が揺れ、自分の心が揺れた。
少し体制を崩した彼女の腕を掴みながら、俺は手に持ったスマホを操作してすぐさまQRコードを読み取った。

かわいい姿に浮かんでた疑問も吹っ飛ばして行動してまう自分、甘いなあ。
でも、今、遠く遠く離れていた彼女と俺の距離が、揺れた気がした。

A、ちゃん………。
初めて、知れた。初めて君の名前を知れた。君と会ってどれだけの月日が経っただろう。
嬉しさで上がり切って下がらない口角をどうにかしたくて彼女の名前を声に出した。

『Aちゃん…。』

"次は、○○、○○です。"

そのアナウンスが合図となり電車のスピードがぐんぐんと落ちていく。

待って。やっと、名前、知れたのに。あまりにも別れが早すぎる。
だけど、引き留めるわけにもいかなくて、彼女はドアへと向かっていった。
それもそのはず、彼女にとって自分はなんの思い入れもない存在で。

小さな背中を見つめていると、Aちゃんが振り返って言った。

「将企……さん。」

将企、でも将企くん、でもない。
将企さん。そう呼ぶ彼女が、Aちゃんが愛おしくて柄にもなく子供のように手を振ってしまった。
だけど、ドア越しに手を振り返してくれたのが嬉しくて、嬉しくて。

ふと、スマホに目を落とすと「A」と書かれた連絡先。

ああ、やってしまったな。
人の彼女にこんなことして…。