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彼と出会ったあの日。
その日は何故かアラームをかけるのを忘れた挙句、普段の倍近いひどい寝癖が付いていて。
いつもなるべく時間に余裕ができるように早めの電車に乗っていたんだけど1本遅い電車に乗ってしまった。その電車でも間に合いはするしそこまで焦る必要は無かったけど…。小走りで駅まで向かった私はへとへとで、電車に乗ってすぐ座席の端にあるポールに捕まってなるべく荒い息遣いが周りの人にバレないように休憩してた。
その時、だった。
『お姉さん、リュックのチャック、空いてますよ。……鍵、盗まれちゃいます。』
「……えっ、？」
どうやら、リュックの小さいポケットのチャックが空いててストラップに付けた家の鍵が見えてしまっていたらしい。
突然話しかけられたことにも勿論驚いたけれど、何より話しかけてくれた男の子がかっこよくて、私は目を離せないまま突っ立ってしまった。
こんな少女漫画みたいな展開が本当にあるんだと、そして自分も男の子のかっこよさに驚いてめちゃくちゃヒロインみたいになっちゃうんだと棒立ちしながら呑気に思った。
そんなことを考えてるとも知らずに、彼は私にこう言った。
『あ、後ろだから閉められないですよね。僕、直しますよ。』
「あ、すみません。有難う御座います……。」
『大丈夫なんで、謝らないでください。』
あどけない笑顔でそう言った彼に従ってリュックのチャックを閉めてもらうことにした。
ただ、それだけ。チャックを閉めてもらっただけ。
なのに、何故かドキドキした。すごくドキドキした。チャックは後ろ側だから顔すら見えないのに。
今思えば、これが一目惚れってヤツなのか、なんて少々生意気な気づき方をする。
そこからと言うもの私は乗る電車を変えた。
朝遅くに起きるからではない。増してや、彼に会えるとわかったら少し早めに起きてより綺麗でかわいい自分を目指してしまう。
毎朝電車で会って、お互いに2回会釈をするだけ。
合わせて10秒も無いけれど、私はそのたった数秒を楽しみに毎日生きている。
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作者名：かどき | 作成日時：2024年1月22日 18時
