59 焼き付けた人 ページ9
*
グラスに口をつけて、口の中に流し込む。
ふんわり甘い香りが漂って
そのあと、ドッと甘さだけが押し寄せる。
紫耀くんの気持ちはこんなにも甘くて……………
だけど
最後には、その甘ったるさなんか搔き消すくらいの苦味が
口の中いっぱいに広がった。
それはビターチョコレートのような苦味で
それでも、さっきまでの甘さが愛しくなるようで。
紫耀「……………Aちゃん?どうしたん」
気づけば
頬を伝う温かい涙。
「やだ、私………」
欲しくなった。
この甘味も、苦味も、全部。紫耀くんからもらいたくなった。
紫耀「ごめんっ……、口に合わんかった?」
『違う。違うの………。』
しばらく紫耀くんは何も言わなくて
店内には私の啜り泣く声だけが響いた。
紫耀「Burning in my heart」
「………え?」
紫耀「バーニング・イン・マイハート
___俺の心の中に焼き付ける
このカクテルの名前。」
そう口にする紫耀くんは
シャツの胸のあたりをぎゅっと握り締めて、唇をキリッと噛んだ。
紫耀くんは
ナナセさんを
忘れることなんてできていなくて
心を離すことなんてできていなくて
その表情は、私にそう思わせた。
紫耀「………そんな悲しそうな顔すんな」
顔に出てたんだ、私。
紫耀くんは手を伸ばして、頬に触れた。
紫耀「さっき、これでナナセのことほんまに最後にしようと思って作ったって話したやろ?」
「………うん」
紫耀「でも、知らんうちに最後は終わってたみたいや」
「どういう意味?」
紫耀「これ作っとるとき、心ん中で想ってたんは
あいつやなくて、Aちゃんやった。
もうあいつのためのカクテルなんて俺は作れんようになってて
ラムも、キュラソーも、カシスも
_____ 全部Aちゃん。」
紫耀くんの瞳は真っ直ぐに私だけを見つめて
頬に触れる手つきは壊れ物を扱うように優しくて
紫耀「……………おまえや。」
「………え?」
.
紫耀「俺の心に焼き付いとるんは、Aや。」
.
時が止まったみたいに感じられる。
空気を切って
空間を切って
紫耀くんの手が私の頭の後ろを支える。
「しょう、くん………っ」
少し身を乗り出した紫耀くんが
伏し目がちに私の唇を捕らえた。
それは
アルコールのせいで苦くて
涙のせいでしょっぱくて
だけど、とびきり甘いキスだった。
*
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蘭(プロフ) - ものすごく面白かったです!!勇太が自分から悪役になって主人公の女の子を送り出すのが本当に泣けました! (2019年8月25日 4時) (レス) id: f0c1e98991 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - めっちゃ泣いちゃいました!おもしろかったです(^-^) (2018年5月31日 8時) (レス) id: a62c72f2bc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぴ - いろいろ感動しました。すごく、おとなぽっくてかっこいい作品でした。 (2017年8月24日 12時) (レス) id: 1413602191 (このIDを非表示/違反報告)
樹里亜(プロフ) - とっても大好きな作品でした。私好みすぎて… これからも頑張ってください! (2017年7月12日 0時) (レス) id: cc2f6a9c78 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - CHI-NAKAさん» メインではない登場人物の性格や言動もこだわって書いているのでそう言っていただけるとすごく嬉しいです!ありがとうございます(>_<)!!! (2017年6月25日 23時) (レス) id: 6707e6f3bd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨音 | 作成日時:2017年4月15日 20時