87 その先に見えた ページ38
*
勇太はその腕の力強さとは真逆の
柔らかな表情を浮かべて私を見下ろしていた。
そして直後
ベッドサイドにあるランプを床になぎ倒す
あまりの大きな音に、体が勝手に震えた。
.
" A！A！ "
" おい！開けろ！！！ "
ドンドンと扉を叩く音は次第に大きくなっていって
聞いたこともないくらい、激しい声色。
それなのに何故か
勇太はあっさりと私の上から下りて
その声のするほうへ向かっていった。
解放され
すぐに起き上がる私
ねえ、勇太
何をするの………？
勇太「………何しに来たんだよ」
『お前………ふざけんな』
くぐもった声は焦りの色を隠せてはいなかった。
紫耀くん。
本当に紫耀くんが、来てくれたんだ。
まだ少し震える自分の体をぎゅっと抱きしめながら
気づけば目には涙が溜まっていくばかりだった。
『Aを返せ』
勇太「………お前のもんなの？」
『当たり前やろ』
隙もなくその言葉を発してくれた彼に
胸が締め付けられて、そして熱を持った。
勇太「だったらなんで
……………傷つけてんだよ。」
.
扉のそばで壁にもたれ掛かる勇太の横顔を見て
ハッとした。
ねぇ、そういうことなんでしょう？
最初からこうするために、私を＿＿＿＿＿
私の視線に気づいて、微かに微笑んだ彼は
昔から知っている優しくて温かい勇太だった。
" 待ってて。ちゃんと幸せにするから。"
まるで夢の中のように
儚い意識の中で聞こえた言葉。
今なら分かる。
それが勇太の、ありったけの優しさだったこと。
本当に
本当に
優しいひと。
『……んなこと、おまえに言われたくねーんだよ！！！』
ドアが壊れてしまいそうなくらいの大きな音に
体がビクッと震える。
あれから一瞬静まり返ったその間に
勇太は踵を返して、私の元に歩いて来た。
その顔をよく見たいのに
涙で霞んでうまく見えないんだ。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2720人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蘭(プロフ) - ものすごく面白かったです！！勇太が自分から悪役になって主人公の女の子を送り出すのが本当に泣けました！ (2019年8月25日 4時) (
レス) id: f0c1e98991 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - めっちゃ泣いちゃいました！おもしろかったです(^-^) (2018年5月31日 8時) (レス) id: a62c72f2bc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぴ - いろいろ感動しました。すごく、おとなぽっくてかっこいい作品でした。 (2017年8月24日 12時) (レス) id: 1413602191 (このIDを非表示/違反報告)
樹里亜(プロフ) - とっても大好きな作品でした。私好みすぎて… これからも頑張ってください！ (2017年7月12日 0時) (レス) id: cc2f6a9c78 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - CHI-NAKAさん» メインではない登場人物の性格や言動もこだわって書いているのでそう言っていただけるとすごく嬉しいです！ありがとうございます(>_<)！！！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 6707e6f3bd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨音
| 作成日時：2017年4月15日 20時
