九つ ページ10
「そういう役だったのかもね」
「ん？」
「私はこっち側、鈴はあっち側」
母に似ている鈴はあちら側の人間、父に似ている私はこちら側の人間。
どう足掻いても届かないということが最初から決まっていたのかもしれない。
それこそ運命とかいうやつで。
「なら僕は時計屋の役かな」
「楓麻は悩める若者？」
何を馬鹿なことを言っているんだろうか。
「じゃあ頑張ってね、手掛かり探し」
「頑張っても無駄だと思うけどね」
そう言って店の奥に引っ込んだ縋さんを横目で見る。
どうせまたやることがないのだろう。
つくづく 暇な 店主である。
「なんでアルバイトの仕事量の方が多いのよ」
ぶつぶつと言ってみたもののここにただ立っているだけの様なものだし、仕事とも言えないのかもしれない。
＊
夜7時、ボロアパートの前。
鉄階段をかんかん喧しく登って、シャワーを浴びて、本を読んで、寝る。
ただ、それだけのハズ。
「真尋か？」
短く整えられた真っ白な髪、曲がっていない背中、目深に被ったキャップ、しわがれながらも芯の強さを伺わせる声、鋭い目付き。
鋭い目は、琥珀色だ。
「……おじいちゃん、かな」
「そうだ」
顔だけ霞がかかった様に思い出せないけれど、小学校に上がる前、幼稚園の迎えに母がどうしても来られない時に何度か手を繋いで帰った記憶がある。
父が出て行ってからはぱったりと会わなくなっていたが。
「なんでここが分かったの？」
「鈴がな。随分苦労したらしいが」
どうやら随分頑張っているらしい。
「で、どうしたの？」
「どうしたもこうしたもあるか。孫に10年以上会ってないところに居場所を知らされてみろ、会いに行くに決まっとるだろうが」
思わず苦笑する。この人らしいと言えばらしいが。
明け透けなところは父にそっくりだ。いや、父が祖父に似ているのだろうが。
口数は少ないがいつも笑顔で、隠し事を決してしない人。
「今は何をしとるんだ」
「大学に行って、アルバイトして……それくらいかな」
言葉にしてみると年齢にしては随分と味気ない生活をしているものだ。
「そうか。体には気を付けろよ」
「おじいちゃんがね」
茶化す様にそう言うと、キャップをずらして笑った。
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黒鯛焼き(プロフ) - 鈴木。さん» コメント・ご閲覧ありがとうございます。 描き方には普段から気を付けているので嬉しいです。更新頑張らせて頂きます！ (2014年12月11日 23時) (
レス) id: b19664867e (このIDを非表示/違反報告)
鈴木。(プロフ) - とても続きが気になります。書き方も丁寧で読みやすいですね。私も見習いたいです。何かと忙しいでしょうが、更新頑張って下さい。応援しています。 (2014年12月11日 23時) (レス) id: 3a94d7675b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒鯛焼き | 作成日時：2014年12月11日 1時
