八つ ページ9
マフラーを放り投げ、溜息を吐いた。
あれから4日、鈴の居場所を示すものは未だ一つも見つかっていない。
まさか通っている高校に「こんにちは」と乗り込んでいく訳にもいかないだろう。
数年前の留守番電話によると母は私を大馬鹿者呼ばわりし、親戚間でも私は存在自体が殆どなかったことにされているらしい。
全く情緒不安定な人である。女手一つで投げ出しもせずに私と鈴を養ってくれたことには感謝しているが。
行きたくもない大学から帰宅し、ぶつける先のない苛立ちをぐるぐる回転させている。
＊
「そんな感じよ」
「参ったね」
6日経ち、手掛かりがないことを伝えるとカウンターに頬杖をついていた縋さんは苦笑した。
「家に直接行く……のは無理か」
「私の命が危ない」
自宅療養に切り替えているらしい母の目に留まったら冗談抜きで危ない。
そしてそのショックで母自身も危ない。ハイリスクにも程がある。
「……お父さんが離婚して出て行った、んだっけ」
「そう。そこから色々おかしくなってこの通りよ」
私が8歳の頃に父が出て行き、そこから2年と経たない内に母が過労で倒れた。
当然姉である私が5歳になったばかりの鈴の面倒を見ていたが、私はクラスの馬鹿共から陰口を叩かれ、鈴は幼稚園で捨て子と呼ばれ、散々な目に遭った。
最終的に堪忍袋の尾が切れた鈴が男の子を4人泣いて逃げ出すまで殴りつけたのだが。
「真尋……君のその目は手掛かりにはならないの？」
そう言った縋さんの気持ちは分からないでもないが、反射的に顔を顰めてしまった。
「…………無駄よ。大体顔も覚えてないし仮に見つけたところで母が包丁持ち出してくるわ」
私の目は黒色ではない。琥珀色だ。
日本という国籍、日本人である母からは生まれるハズもない色彩の元は、父だ。
私が家を飛び出した理由の一つでもある。
染めている訳ではない茶色い髪も、人より白い肌も、父に似た顔立ちも、全て、母が私を遠ざける要因となったもの。
愛されていない、訳ではなかったと思う。
ただ、幼い頃から距離を感じた。
ほんの少しの、でも、絶対に覆らない距離。
「お父さんの目の色なんだよね」
「ああ、なんかよく覚えてないけどハーフの人だったんだって。だから私はクォーター、ってことになるのかな」
母と顔も見たことがない様な親戚が話しているのを聞いた。
父方の祖父が遠い異国の人間だったのだと。
どこにいるのかも分からない祖父母に、思いを馳せたことを微かに覚えている。
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黒鯛焼き(プロフ) - 鈴木。さん» コメント・ご閲覧ありがとうございます。 描き方には普段から気を付けているので嬉しいです。更新頑張らせて頂きます！ (2014年12月11日 23時) (
レス) id: b19664867e (このIDを非表示/違反報告)
鈴木。(プロフ) - とても続きが気になります。書き方も丁寧で読みやすいですね。私も見習いたいです。何かと忙しいでしょうが、更新頑張って下さい。応援しています。 (2014年12月11日 23時) (レス) id: 3a94d7675b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒鯛焼き | 作成日時：2014年12月11日 1時
