五つ ページ6
「……真尋」
一度店の奥に引っ込んだ私に泣きそうな顔と声の楓麻、珍しく真顔の縋さん。
どう足掻いても穏便には済ませられない。あの子がああなってしまったのは私の所為でもあるのだから私がどうにかしなければならない。
「……妹だよ。クラスにいたでしょ、白川って人」
せめてもの悪足掻き、明るく笑ってみせる。
ますます鋭くなる縋さんの視線からは、黙って目を逸らした。
＊
「……今、何してるの？」
ふて腐れた様な表情の鈴は淹れてきたホットコーヒーに手を付けようともしない。
「……大学に行ってる。あとはここでアルバイト」
ふぅん、と気のない返事をしてまた俯き、言葉を探し始めた。
昔から人の内側に踏み込むことを踏み込まれることと同様に嫌っていたこの子がこんなことを訊くハズがない。ましてや私になんて絶対に。
なんと言えば分からず思案しているのなんて手に取る様に分かる。
「……店の前で掃除してたの、榊でしょ。何してんの、あいつ」
どうやら見つかっていたらしい。
さて、どう答えるべきだろう。
「……ストレス性の病気の症状が出たからここでお世話になってるらしいよ」
慎重に選んだ言葉を口にすると申し訳程度の相槌が返ってきただけだった。
＊
馬鹿じゃないのかと天気の脳内を疑ってしまう程寒い日だった。
家具が異常に少ないマンションの一室、そこが私達、一家の住まいだった。
その住まいから、人が一人出て行った。
……結果として、その人は二度と帰ってこなかった。
《お父さんは、今日から別々に暮らすの》
─────それは嘘でしょ、お母さん。
その言葉を投げつけることを躊躇して、結局飲み込んだ。
防寒に大して貢献してくれない荒編みのセーターの裾を握っている小さな手が、微かに震えているのを知っていたから。
まだ4歳の妹にそれが『離婚』と呼ばれる行為であることを伝えるのはあまりに酷だった。
＊
「……ねえ、」
焦れた様な声色に目が僅かに細まった。
「なんで、……なんで出て行ったのよ」
ああ、来た。
どこまでも頑なな妹がすんなり引き下がるなんてハナから思っていない。
……でも、謝るくらいはさせて。
「……さあ？ 私がいない方があの人の負担が減ることくらい分かってるんでしょ」
背後で、息を呑む音がした。
「………………ふざ、けんな」
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黒鯛焼き(プロフ) - 鈴木。さん» コメント・ご閲覧ありがとうございます。 描き方には普段から気を付けているので嬉しいです。更新頑張らせて頂きます！ (2014年12月11日 23時) (
レス) id: b19664867e (このIDを非表示/違反報告)
鈴木。(プロフ) - とても続きが気になります。書き方も丁寧で読みやすいですね。私も見習いたいです。何かと忙しいでしょうが、更新頑張って下さい。応援しています。 (2014年12月11日 23時) (レス) id: 3a94d7675b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒鯛焼き | 作成日時：2014年12月11日 1時
