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「香の匂いだ」
自分を見つめるAの視線に答えるようにそう言った義勇は、「え、でも私は一度も…」と戸惑った様子を見せるAに、「俺が焚きつけた」ともう一度答える。
「いつの間に…」
Aが気付かなかったということは、Aが寝たあとにやっていたのだろう。
任務や稽古、修行に疲れている義勇にそんなことをさせてしまっていたのかと申し訳なく思ったAが、「次からは私がやります」と申し出ると、「必要ない」とだけ答えた義勇が、老人に「お願い致します」と言って立ち上がる。
「今から義勇に稽古をつける。参考になるだろうから、二人も見るといい」
そう老人に声をかけられ、Aは炭治郎と一緒に義勇と老人の後を追いかけながら、炭治郎に「あの方のお名前は、何て言うんですか…?」と今更な質問をする。
「鱗滝左近次さんですよ。…俺も、最近ここで修行を始めたばかりなんです。お互い頑張りましょう!」
そう言ったあと、思い出したように「年も近そうですし、敬語はいらないですよ」と笑みを浮かべる炭治郎にAも笑顔になって、「うん。仲良くしようね」と嬉しそうに返事をした。
「気になるか?」
「!」
真っ直ぐ前を見ながら後ろの声に耳を傾けていた義勇は、突然声をかけられたことと気付かれていたことに驚いて、思わず立ち止まってしまう。
「護りたいのは分かるが、無理に縛り付けてはならん」
「…承知しています」
「ならいい。…では、始める。雑念は捨てろ」
そう言って竹刀を構える左近次に習って竹刀を構えた義勇は、迷いなく左近次の急所を狙って竹刀を振り下ろす。
「おお…」
炭治郎が感嘆の声をもらすのも分かる、隙のなく展開も早い打ち合いに、Aも二人の一挙一動を見逃さないようによく目をこらす。
「踏み込みが甘い!」
耳の奥が痛くなるほど激しく竹刀がぶつかり合う音に、いつもの自分と義勇との稽古を思い出しながら、Aは普段の自分の一撃一撃の軽さを身にしみて感じる。
最近やっとまともに打ち合えるようになってきたと思っていたけれど、ただ義勇さんが手加減してくれていただけだったんだ…。
やっと少しずつ湧いてきていた自信が木っ端微塵に砕かれて、Aはなおも続く打ち合いを見つめながら、人知れず小さく息を吐いた。
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チーズ(プロフ) - レインさん» コメントありがとうございますー!!不器用、じれったいをモットーにして書いたものなので、そう言っていただいて嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございます! (2019年12月17日 21時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - 義勇さん不器用すぎていつ、くっつくんだ!早くくっつけ!クソッ!!見てるこっちがなんかアレだ!!(語彙力) 面白い!! 完結おめでとうございます! (2019年12月17日 20時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - たまごさんさん» 最後までお付き合い頂きありがとうございます!!そうだったんですね!嬉しいです!次作でもどうぞよろしくお願いします! (2019年12月1日 7時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
たまごさん(プロフ) - はああ・・・やはり良きです・・・完結おめでとうございます!!無惨様の作品は知らず知らずのうちに見ていました!!好きだなあと思って、作者誰だろ?と下にスクロールしたらまさかの・・・。僭越ながら次作でも応援させていただきます!! (2019年12月1日 0時) (レス) id: 8760f7a678 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - orangeさん» こちらこそ、最後までお付き合い頂きありがとうございます!ぜひ書かせていただきます(^^)もうしばらくよろしくお願いします! (2019年11月30日 23時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2019年11月13日 13時