Episode32 【健人side】 ページ32
「健人くん、大丈夫？仕事？」
電話を切るとAさんが心配そうにそう尋ねた。
「うん、大丈夫。明日の入り時間がちょっと早くなったみたいで、朝６時に迎えに来るっていう電話だった」
聞かれてもいないのに話してしまって、途端に後悔した。
「え？！６時？？そんなに早いの？大変！もう帰らなきゃね」
そう言って彼女は早速帰る支度を始めてしまった。
「あ、いや、そんなに急がなくても大丈夫だよ。まだ２２時過ぎだし」
「ダメだよ！そんなこと言ってたらどんどん寝る時間なくなっちゃうよ」
結局俺たちは足早に店を出ることになった。
電車で帰るというAさんをどうにか説得して一緒にタクシーに乗り込む。
移り行く景色を眺めている彼女の横顔を見ていると、後悔の念が押し寄せる。
あの時…
頭に触れられて恥ずかしそうにうつむく彼女に、俺は何と言おうとしたのか…。
早く自分のものにしたいという焦りから、つい気持ちが先走ってしまった。
(ホント余裕ねぇな、俺…)
彼女の前だと調子が狂う。
２０分ほど走らせたところで、彼女のアパートに到着した。
運転手さんに少しだけ待っていてもらうよう伝えて、俺も一緒に車を降りる。
「今日は本当にありがとう。結局食事もご馳走になっちゃってごめんね」
「そんなこと全然気にしないで！」
「それにＴシャツもネックレスも…ありがとう。大事にする」
「うん」
ほんの少し沈黙が流れる。
なんとなく、互いに別れがたいような、時間を惜しむ気持ちがそうさせるのかもしれない。
先に口を開いたのは彼女だった。
「気をつけて帰ってね。明日朝早いもんね。お仕事頑張ってね」
「うん…ありがと。Aさんも気をつけてね」
「私はあとこの階段上がって部屋に行くだけだから大丈夫」
笑いながら答える。
「じゃあ、おやすみなさい、健人くん」
「うん、おやすみ」
彼女は階段を登って行ってしまう。
途中１度だけ振り返り、小さく手を振ってくれた。
胸の中に切なくて甘い感情が広がる。
帰したくないけど、その背中を見送りながら不思議と幸せな気持ちになった。
「“おやすみなさい、健人くん”か…」
彼女の言葉を復唱してニヤける。
途端に恥ずかしくなり、手のひらで口元を覆い隠した。
見上げると彼女が指示した部屋に明かりが灯った。
それを確認すると、「おやすみ」と小さく呟いてタクシーへと戻った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
☆ - 25【ハットを頭に載せたりしながら】→乗せたりしながら、 30【手にあるものを載せ】→乗せ、 42【アップルパイの載った皿を】→乗った皿を だと思います (2019年7月4日 18時) (
レス) id: 44d28ad2ed (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - 更新ありがとうございます。この先の展開がすごく気になります（笑）頑張ってください〜！ (2018年2月13日 19時) (レス) id: cf3c548632 (このIDを非表示/違反報告)
Sexy Rose(プロフ) - ゆらさん» ゆらさん、お待たせしております(^^; これからもできるだけコンスタントに更新していきたいと思います。よろしくお願いします！ (2018年2月7日 0時) (レス) id: 3736ec2a42 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - 更新待ってました！これからも頑張って下さい。 (2018年2月6日 21時) (レス) id: b82b4b4cec (このIDを非表示/違反報告)
Sexy Rose(プロフ) - 愁さん» 愁さんコメントありがとうございます。細かいところまでしっかり読んでいただいて、ご指摘ありがとうございます！早速修正しました。ありがとうございました！！ (2018年1月29日 3時) (レス) id: 3736ec2a42 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Sexy Rose | 作成日時：2018年1月22日 19時
