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踵を返して、ふらつく身体を無理に動かす。向かう先は使われていない空き部屋だ。何度か同じ撮影所で見つけた隠し部屋のような場所は度々お邪魔している、安息地だった。
今回もお世話になろう。もう心は急いていた。必死に足を動かしスタジオを後にする。後ちょっとで廊下、と気を緩めたその時。再び起きた突発的な立ち眩みに浮遊感を感じた。
「淳太! 照史! 俺ちょっと神ちゃんと一緒に外の空気吸ってくるわ!」
目を開けると先ほどと同じ光景が広がる。しげの匂いが鼻腔を掠めて、どうやら抱きとめられたようだった。
しげの身体が離れてもぼんやりとする頭では急には動けず、肩に回された腕を見つめる。
「神ちゃん、いこ」
しげらしい優しい歩み。会話はなかった。
ゆっくりゆっくり進んだ先にある使われていない部屋。奇しくも前々からずっと安息地として使用していた部屋だった。
勝手知ったるように照明をつけてソファに横並びで座る。お世辞にも座り心地がいいとは言えないが、スプリングの軋む音が小気味良かった。
喋る気力もなくて、ぼお、っと対面の壁を見つめる。
一致した焦点が再び歪みだしたらどうしようか、とか。薬持ってたっけ、とか。
不安や心配が次々に出ては消える。考えるのも億劫で、目を閉ざすと、投げ出していた左手が温かなものに包まれた。
ずりり、とソファの上を滑る音がする。しげの吐息を間近に感じて反射的に目を開く。
唇が重なった。
何が起こったのかがわからずパニックになる。とにかく距離を置こうと暴れるが、両腕の動きを片手で封じられ、首の裏に手を回されてしまえば抵抗すらも許されなかった。
ファーストキス、だなんてメルヘンなものでもないが、しげが何をもって口付けたのかがわからなくて恐怖の方が勝った。
重なって吸われ貪られ。
息苦しさに声をあげ、ようやく離れたそれに、俺は戸惑いから目の前のしげを突き放してしまった。
手の甲を唇に当て、震える声で糾弾する。
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作者名:せろ | 作成日時:2021年3月25日 19時