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結婚してから購入した国産車に乗り込んで、シフトレバーに手をかける大毅を助手席から見つめる。大毅も運転がうまい。中でもシフトレバーを扱うそのしぐさを見るのが好きだった。
「ん？ 何見とんの？」
「秘密」
「秘密かぁ」
「ん、秘密。俺だけの」
ゆっくりと車が動き出す。地下から地上へ上がれば、荒れだけの静寂が嘘のように騒々しくなる。窓ガラスを打つ大きな雨粒。一つ二つ、と数えられたのはほんの数秒。あっという間にフロントガラスはに幾筋も伝わせていた。
「……雨やばいな」
大毅の口からもう何度目ともわからない言葉が零れる。
それに俺は頷くと、大毅越しに外を見つめた。
「大毅、映画は順調？」
「ん、ぁあ、おん」
「そっか。あんま、大毅の口から今回の映画のこと聞かんから、気になってん」
「あと一か月くらいやな、クランクアップまで」
「そう、なんや」
車内が静まり返る。雨粒の音が大きく聞こえて、なんだかよそよそしい。さっきまで、大毅から発せられていた柔らかな空気は崩れ出していた。
初めて一人で検診に向かった二十四週目のあの日。あの日を境に大毅の表情には少し影が差すようになっていた。映画の打ち合わせを兼ねた顔合わせに出席するのだと出かけていったあの日から。
原因も、その背景に隠された事情も自分にはわからない。でも、その顔合わせの日に何かあったのだろうことは、言われなくとも察せられた。
本人はいたっていつも通りの体を崩さず、おくびにも出すような真似はしていなかったが、それでも長年連れ添っていれば、ある程度どういった状況下にあるのかは感じ取れる。自分が察せられるように大毅ももちろんこちらの機微には人一倍敏い。だがここ最近はそんなことすらも頭から抜け落ちているらしかった。
日増しに甲斐甲斐しくなるそのそぶりも、何かから逃避しているように見えなくもない。大毅らしからぬ余裕のなさに一抹の不安を覚えるのは致し方ないことだった。
どれだけ触れ合っても、言葉を交わしても。手の隙間から零れ落ちていくものはある。全てを受け止めたいと思うのは傲慢だ。でもそんな存在でありたいと思うことは許されていたい。
「なあ、大毅」
「……ん？」
「いつか、話してな」
大毅からの返事はない。今はそれでよかった。
雷鳴が轟く。
その中を車は病院に向けてひた走っていた。
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もち - 続きが気になります🥺 (2021年11月26日 6時) (
レス) @page22 id: e736566183 (このIDを非表示/違反報告)
camokinoko(プロフ) - 久しぶりの更新に嬉しすぎて声が出てしまいました！本当に大好きな作品です。せろさんのペースで、どうか無理のないよう‥ (2021年6月21日 1時) (レス) id: 636c89ef1d (このIDを非表示/違反報告)
せろ(プロフ) - みきさん» こんにちは。お優しいお言葉ありがとうございます。中々進まず申し訳ございません。また更新のたびに読んでいただけると幸いです。また何卒よろしくお願いいたします。ありがとうございました！ (2021年3月22日 0時) (レス) id: 58d899afb2 (このIDを非表示/違反報告)
せろ(プロフ) - ま。さん» こんにちは。いつもありがとございます。先ほどメッセージさせていただきました。ご確認いただき、一度試していただけると幸いです。お手数お掛け致しますが、何卒宜しくお願い致します。 (2021年3月22日 0時) (レス) id: 58d899afb2 (このIDを非表示/違反報告)
せろ(プロフ) - べりー。さん» こんにちは。いつもありがとうございます。お恥ずかしながら開設いたしました。直前でユーザー名を変えてしまったため、検索に引っかからない場合があるみたいです。見つかりましたでしょうか？もし見つからなければお教え下さい。個別にお伝えさせていただきます。 (2021年3月22日 0時) (レス) id: 58d899afb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せろ | 作成日時：2020年12月14日 0時
