【EN-】ようこそヨンサン食堂へ(仮)-3 (ページ13)

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分岐点ページ13

何駅か分を歩いて帰ろうなんて、普段の私なら微塵も思わない。
こっちに来てから速さにこだわるソウル民の様に、1番早いルートで帰ろうとしてる自分に血は濃いなと思ったくらい。
なのに今日に限っては、歩くスピードが遅くなっている。

「夜の川沿いを一度歩いてみたかったんだよね」
「へぇ…ロマンチストだ」

前を歩いていたソンフンさんは振り返ると私を見て微笑んだ。

「普段が現実的過ぎるから、韓国人は。急にこんな風に、雰囲気に酔いたくなるんだよね」
「日本人も変わらないですよ」

正確に言うと日本人ではなく日本育ちですけど。

「そういえば…あの子、あれからどうしてます」
「あの子？」
「あの、ソンフンさん大好き美少女」

前にスケートリンクで私にやたらと絡んできた、ソンフンさんと同じスケートクラブに所属してる女の子のフィギュアスケーター。
ソンフンさを見る目は本当にハートが出てるんじゃないかってくらいキラキラしてるのに、私を見る目はゴミでも見るかの様に嫌悪剥き出しだった…。

「あーあいつか」

はぁ、とため息つくってことは相変わらずなのか。
でも…良いよね、定期的にソンフンさんには会えるんだし。

「まーアイツは別に気にしてないから良いんだけど」
「だけど？」
「キッズクラスの子達が…」

ああ、あのギャラリーか。
子供って意外と飽きそうで飽きないもんね。
まだ遊ばれちゃってんのかな…ソンフンさん。

「まだあと2ヶ月の辛抱ですよ」
「長いなー」

他人の言葉も3ヶ月ってことわざね…
それだけ覚えてたら記憶力すご過ぎる。

「Aさんは…いつまでこっちに居るの？」
「あと1ヶ月です」
「もう？そんな？」

ソンフンさんは隣に並んで私を見つめた。

「学校、休学してるんで…さすがに入ったばかりの高校、もうそろそろ戻らないと」

お祖母ちゃんのことは心配だけれど、先のことを考えるとあとひと月が限界かな。

「確かに」
「ソンフンさんは、ずっと続けるんですか？スケートと練習生」
「まだ少し迷ってる」

10年近く続けてるんだっけ、スケート。
それは簡単にやめられるものじゃないよね…。

「大変じゃないんですか？」
「正直大変だし、どっちも続けられるとは思ってないけど」
「ですよね」
「決めたら、絶対にやり遂げるよ」

なんか凄いな…たった２つしか年が離れてないのに。
もう人生の分岐点に立ってるなんて。
先延ばししがちな自分が恥ずかしいわ。

「だから…離れても、僕のこと覚えていて」