ぬるくなったココア ページ28
強くなりたいと思えば思うほど、人はなぜか自分に厳しくあろうと考える。辛いことに耐えれば強くなれると信じているからだ。
私みたいなストイックに生きるのをなるべく避ける人間は、周りから根性がないとか甘いだのなんだの言われるけど…苦しい時間を過ごせば幸せになれるのか？って聞いてやりたいわ。
「最初はさ…全部こなせるって信じてたんだよね。自分なら出来るって」
誰もいないキッチンに侵入して、私たちは作業台の角を挟むように座っていた。
「勉強も、委員の仕事も、レッスンも…なんでも努力は報われるってずっと思って来たから」
私のマグカップはヤンくんに、お祖母ちゃんのは私が手に持っている。
中身は温かいココアだった。
「でも段々…努力じゃカバーしきれなくなって、その内出来ない自分が悪いんだって考えるようになっちゃっててさ」
「ヤンくん…」
「だからもっと頑張らなきゃ、自分で何とかしなきゃってて追い詰めてたんだと思う」
ヤンくんっていっつも感じ良くて、周りに気を配って、出来た人間って私も思っていたけれど…
そうあろうとしてたんだろね。
特に周りから期待を背負ってる人ほど本当の自分が出せなくなるんだろう。
「期待されない方が楽な時の方があるのかもね」
「ん？」
「褒め言葉だったり励ましの言葉が、人によってはダメージになるんだなって」
マグカップのココアを飲むと、少しぬるくなってていつもより甘く感じた。
ヤンくんは飲まずにただ見つめている。
「Aさんはさ、お世辞とか言えない人だよね」
「…すいません」
「あ、いや、そうじゃなくて。その方が僕には良かったから」
「え？」
ヤンくんは苦笑いをして私を見た。
「だって自分にも周りにも正直な人が一番誠実だよ。そういう人は探してもなかなか見つからない」
「ヤンくん…」
「そばに居ると安心するんだ、この人の前では無理しなくても良いんだって。素直になれるから」
私の手の上に彼の手が重なった。
「でも…ま、ちょっと無理することはあったけれど」
「え…？」
「一目惚れだったから」
重なった手に力が籠って、私の手をヤンくんの大きな手が包み込んだ。
「好きな子には無理してでも自分をよく見せたいからね」
「…え」
「あーあ、言っちゃった」
握った手を引っ張られて、身体がヤンくんの方に倒れる。
「ちょっと素直になり過ぎたかな」
「あの…」
私を抱きしめる彼の腕に力が籠った。
「好きだよ」
「え…」
「ずっとそばにいたい」
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eng(プロフ) - 依鈴さん» ありがとうございます！気づけば長くなってしまいましたが、引き続きよろしくです^ ^ (3月4日 17時) (
レス) id: c7224089dc (このIDを非表示/違反報告)
依鈴(プロフ) - 続編楽しみにしてました〜！面白いです！毎日楽しみにしてます！ (3月4日 16時) (レス) id: 71a1970ec1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：eng | 作成日時：2024年3月4日 14時
