すっ飛んでいく ページ26
「A、あんたまだ居たの」
「あ、うん…」
手伝いが終わると私はスマホを片手に食堂がある建物の屋上に居た。
たまに休憩でここに来るけど近所にあまり高い建物がないから見晴らしはいい。
夜は、遠くに見えるビル群の夜景が綺麗だ。
「明日は休みだけど、早く帰りなさいよ」
「はーい」
お祖母ちゃんは屋上にある倉庫から業務用の調味料を取り出すとすぐに下へと降りて行く。
私はそれを見届けて、スマホの画面をタップした。
『ヤン・ジョンウォン』
最後に通話したのは3日前の夜。
「こんな時間までほんと大変だね」
「うん…」
スマホ越しに聴いた彼の声は少し疲れていて、だいぶ眠そうだった。
「もうすぐ中間試験だよ、勉強してる？」
「んー、あんまり」
「そっか…私はこっちで卒業しないだろうし、スヌンも受けないからそんなに成績は気にしてないんだけど」
「えー、いーなー…」
他愛もない話を数分して、私から切り上げて会話を終わらせた。
それからヤンくんから連絡が途絶えて、日常生活では色々と忙しくなって彼の存在が私の中で遠のいていた。
ソヌ先輩に聞くまでただ忙しいんだろうな、くらいにしか思ってなかった。
「もしもし…」
「もしもし、ヤンくん？」
長いコールの後にヤンくんは電話に出た。
やっぱり声が疲れてる…。
「どうしたの…」
「うん、最近あんまり話してなかったから」
「そっか」
やっぱり掛けない方が良かったかな…
ヤンくんの日常が落ち着いて元気そうな時にまた話しかけてみよう。
「今日…帰りに話したかったから、掛けてくれて嬉しいよ」
すると少しだけ彼の声のトーンが明るくなる。
「大丈夫…？最近、あまり元気ないから」
「ん…大丈夫だよ。声聞けて、元気になった」
でもまた声のトーンは下がって、ゆっくりとした口調。
「どした？話聞こか？」
「ううん。もう…その気持ちだけで十分」
力の抜けた笑い声がなんだか少し寂しくなる。
「心配かけてごめん…また明日、学校で」
「あのさ、私…」
「ん、どうしたの？」
あれ？何にも出てこないな。
人と関わらな過ぎた人生だったから…こういう時に気の利いた言葉とか全然知らないし、知ろうともしなかったなー。
「Aさん？」
「ごめん、ヤンくんのこと励ましたり慰めたりしたいんだけど…なんも出てこない」
「え…？」
正直に言おう、この際。
「あー、でももし私がヤンくんに何か出来ることあれば教えてね」
「………」
「すっ飛んでくからさ。それだけ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
eng(プロフ) - 依鈴さん» ありがとうございます！気づけば長くなってしまいましたが、引き続きよろしくです^ ^ (3月4日 17時) (
レス) id: c7224089dc (このIDを非表示/違反報告)
依鈴(プロフ) - 続編楽しみにしてました〜！面白いです！毎日楽しみにしてます！ (3月4日 16時) (レス) id: 71a1970ec1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：eng | 作成日時：2024年3月4日 14時
