優しく響く ページ37
ぽすんっ
―一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
真っ暗な視界。
他人の息遣い。
柔らかい感触に、ぬくもり。
甘い匂い。
それらに包まれていると感じた直後、ようやく理解する。
(抱き締め、られ…!?)
理解はしても動揺は免れない。
身を乗り出したカタクリは、伸ばされたAの両腕によって、そのままAの胴体にすっぽり収まる形で頭部を抱き締められていた。
動揺も無理はない。カタクリはこれまで誰かに抱き締められた経験などなかった。親であるリンリンにすら。
加えて―いやむしろそちらの理由の方が原因としては大きいが―柔らかさも、温度も、匂いも全て、この一週間求めて仕方のないものだった。それが今、一週間前のあの時以上の質量で、直接感覚を支配しているのだ。
(だからなんだ。こいつの力程度どうにでもなる。さっさと起き上がって…)
床についた片腕を押して起き上がろうとする。が、動けない。
頭では離れなければと思うのに、身体がいうことをきかない。
「お、い…A…っ」
それでもなんとか声を絞り出して名前を呼ぶも、Aは目覚める気配がない。
『大事に…して…』
頭上から声が響いた。耳を傾けるまでもなく直接頭蓋骨に響くものだから、聞き逃すのはむしろ不可能だ。
『自分を…もっと…貴方は私の、いちばん、たいせつな人、だから…』
寝ぼけてたどたどしくなった言葉が、むしろひとつひとつ確実に降ってくるようで。
(…うるさい)
自身から発せられる音が、ドクドクと、早鐘を打ってやかましい。
暑い。熱い。
吐いた息の熱さに驚愕した。駄目だ。自分の心臓の音に、気付いてはいけない。
そうやって意識を逸らそうとした先で聴こえたのは。
…―とくん、とくん。
(これは……そうか、Aの…)
カタクリのそれとは違い、小さく、ゆっくりと、規則的に音を立てている。
じっと聴いていると、何故だか自分の音まで、それに合わせてゆるやかになっていった。
暑さが暖かさに、熱さが温もりに。
―ああ、きっと。これは【安心】だ。
誰かの音が、こんなにも落ち着くものだとは思わなかった。
(……少しだけ)
離れたいのに離れたくなくて。
どうかしていると思いながらも、この甘さに浸っていたい。
(今日はさすがに、疲れた)
だから、ほんの少しだけ。たった5分で良い。
他に誰もいない森の中なら、そのくらいは許されるだろう―。
だがカタクリは知らない。
眠る時の【5分】は、往々にして数時間に及ぶことを。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1005人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
露木アマナ(プロフ) - 豆腐さん» 豆腐さんコメントありがとうございます！ﾆﾏﾆﾏして頂けて嬉しいです(*´▽｀*)生きがいだなんて；；私も豆腐さんのコメントで頑張れます！本当にありがとうございます…！ (2019年4月10日 23時) (
レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
豆腐 - 深夜に申し訳ありません。めちゃくちゃ最高です……ﾆﾏﾆﾏが止まらなくて、この小説を読むことが、私の生きがいになっています！更新頑張ってください！ (2019年4月8日 0時) (レス) id: a9fbc04af8 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - とうとうこちらの作品で評価500票を頂きました…！本当に、本当にありがとうございます！！ヽ(；▽；)ノ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ティコさん» 今はちょっと更新が出来ていなくて３は不穏な空気が流れておりますが、またティコさんが悶えるような展開になるように頑張りますね！ありがとうございます！ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ティコさん» そ、そんな嬉しいお言葉を頂いていいのでしょうか…!?推しではないのに読んで下さったことも、それで悶えて下さったことも嬉しくて嬉しくて私が召されそうです…！｡・ﾟ・(ﾉ▽`)・ﾟ・｡ おかしいなんてとんでもない！こんなに沢山お言葉を伝えて下さって感激です…！ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：露木アマナ | 作成日時：2018年6月30日 8時
