乱して癒してその先は ページ36
「…何をやっているんだ、おれは」
森の中を歩きながら、カタクリは今更のように冷静さを取り戻しつつあった。
たかが髪留めを拾っただけで、シャーロット家の人間がわざわざ。そうでなくても、こんな時間に女の家を訪ねるなんて。
いくらストレスのせいだといっても、あまりに冷静さを欠いていた。
(だがもうここまで来てしまった。郵便受けか何かにこいつは放り込んでおくか)
指先程しかない小さなそれを弄びながら、そう決めたのだが。
(明かりが…)
ついている？
玄関前に立ち、扉を叩く。が、返事はない。
(人の気配はあるが…鍵も開いている)
【警戒心を持て】とあれ程言ったのに、あいつは馬鹿なのか。
静かな苛立ちが沸き上がるのを感じながら扉を押し開くと、カタクリはあることに気が付いた。
(昨夜は気付かなかったが…この家、でかいな)
少し屈めば中に入れそうだ。Aの種族に合わせた規格ではない。
(そうか。以前住んでいたのは脚長族の…。いや、そんなことはどうでもいい)
「おいA…」
今の家主の名を呼んで、部屋の中を見渡すとそこには。
『すー…すー…』
ソファに横たわりながら眠る、Aの姿があった。
近くのテーブルには本が積まれていて、何かメモのようなものも散らばっている。作業の小休止中に眠ってしまったというところか。
しかし穏やかな顔で眠るAに、またしてもカタクリの苛立ちは募る。
叩き起こしてやろうとソファに近寄るが。
「…」
カタクリはおもむろに、ソファの傍で膝を立てて座った。
(…寝顔を見るのは初めてだ)
寝顔ならば心を乱されることもない。そう思った。
しかし髪留をテーブルの上に置き、そのままなんとなしにメモを手に取るとそこには。
【カタクリ様の元気がないのは何故？】
【カタクリ様を癒す効能の食材】
【カタクリ様を幸せにする為のレシピ】
カタクリの名前ばかりが並んでいた。
「くそ…っ」
傍にいなくても見ているのか。おれを。ずっと。
『ん…』
(っ起こしたか…？)
違う。何を慌てている。起こすはずだっただろう。何も問題はない。
『カタクリ、様…？』
薄く瞼を開いて、Aが真っ先に口にするのもまた。
『……て』
何かを言っているが、聞き取れない。
(何を言おうとしている。お前はおれに、何を…)
聞きたい。
今度は聞き逃さないようにと顔を寄せる。
その瞬間。こちらに伸びてくる腕を見た。そしてその直後。
―くんっ
「な、に…っ」
引き寄せられた先は――。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1005人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
露木アマナ(プロフ) - 豆腐さん» 豆腐さんコメントありがとうございます！ﾆﾏﾆﾏして頂けて嬉しいです(*´▽｀*)生きがいだなんて；；私も豆腐さんのコメントで頑張れます！本当にありがとうございます…！ (2019年4月10日 23時) (
レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
豆腐 - 深夜に申し訳ありません。めちゃくちゃ最高です……ﾆﾏﾆﾏが止まらなくて、この小説を読むことが、私の生きがいになっています！更新頑張ってください！ (2019年4月8日 0時) (レス) id: a9fbc04af8 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - とうとうこちらの作品で評価500票を頂きました…！本当に、本当にありがとうございます！！ヽ(；▽；)ノ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ティコさん» 今はちょっと更新が出来ていなくて３は不穏な空気が流れておりますが、またティコさんが悶えるような展開になるように頑張りますね！ありがとうございます！ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ティコさん» そ、そんな嬉しいお言葉を頂いていいのでしょうか…!?推しではないのに読んで下さったことも、それで悶えて下さったことも嬉しくて嬉しくて私が召されそうです…！｡・ﾟ・(ﾉ▽`)・ﾟ・｡ おかしいなんてとんでもない！こんなに沢山お言葉を伝えて下さって感激です…！ (2019年3月1日 0時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：露木アマナ | 作成日時：2018年6月30日 8時
