white out ページ9
「お前の存在ごと隠す必要がある。今から社を解くが、お前の周りを別のモチで包む。おれが良いと言うまで物音ひとつ立てるんじゃないぞ」
『は、はい』
頷いたのを確認し、女の周りにモチの椅子を生成する。
メリエンダが終われば社を解き、控えているパティシエ達が残った食器を片づけるのが通常。
女を隠すにはモチが一番都合が良いが、社を解く以上、ただ隠しても不審に思われる。
一介のパティシエがおれに文句を言うわけもないが、この状況を知られる可能性は万に一つもあってはならない。
ならばどうするか。女を隠した椅子におれが座る。そのまま大臣業務に移ると言えば、パティシエ達に疑われることはない。書類ならばちょうど手元にある。
何も疑うことなくパティシエ達が部屋から出て行ったのを確認して、おれは安堵の息を吐いた。
(おれは、何をしている…?)
誰もいなくなった部屋、正確には足元にあの女を隠しながら、おれは自分自身の行動に戸惑っていた。
(そもそも、この女は一体何なんだ…!)
社の中での一連の出来事を思い出して頭を抱える。何から何まで理解に苦しむ時間だった。
ただひとつ分かるのは、全ての原因が足元にいる女ということだけだ。
おれにもたらされた不可解と、おれ自身の行動の不可解の原因がこの女なら、殺せば簡単に払拭出来る。―が、おれはそうしなかった。
『殺す前にどうか、私のドーナツを食べて頂けないでしょうか…!』
馬鹿な。有名パティシエでもない女のドーナツが楽しみだったとでもいうのか?
(…違う)
そうじゃない。おれの不可解はそんなものじゃない。おれが本当に理解不能なのは。
何度も繰り返された言葉。よりにもよって、おれの食事シーンを見て女は言った。
最初は逃げ出す為の策かと疑った。しかし、あの、あの顔が、声が!
『可愛い…!』
とろけきった目。下げられた眉。紅潮した頬。熱い息。甘い声。
どれも覚えはある。【シャーロット家の最高傑作】を見る顔に似ている。
だがそれでは本当に。
(おれの食事シーンに心を奪われたみたいじゃないか…!)
それだけは絶対に有り得ない。わかっているのに、それ以外に説明がつかない。
顔が熱い。意識が掻き乱される。
こんなのはいつ振りだ。たかがパティシエの女一人に、このおれが翻弄されているのか。
「……」
(まあ良い。3日後には全てはっきりする)
はっきりせずとも、確実に終わる。
…これは、女の真意を暴き、おれが2度と油断しない為の3日間だ。
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時