執行と願いの猶予 ページ7
『愚かなパティシエの願いを、聞き入れては貰えないでしょうか…?必ず美味しいものを作るとお約束します!私のような人間、カタクリ様にとってはいつ殺しても同じことでしょう?絶対に逃げたりしませんし、何ならどこかに閉じ込めて頂いても構いませんから…!』
―だから最期に、一度だけ。
私はただただ祈る思いでカタクリ様に頭を下げた。この願いさえ叶うならどうなったって構わない。心の底からそう思っていた。
どれくらいの時間が過ぎただろう。一瞬にも永遠にも思えた時間の後、下げた頭の上からカタクリ様の声が降ってきた。
「…本当に、それが望みなのか。そんなことが…」
『そんなことだなんて!私にとっては命よりも価値あることです!』
思わず顔を上げて反論すると、気の抜けたような顔のカタクリ様と目があった。
(本当に、色んな顔をなさるのね…)
「……いいだろう。それなら今晩…」
『あっすみません、もうひとつだけ!』
「今度は何だ。やはり死ぬのが恐くなったか」
『そうではなくて、時間を頂きたいんです。そうですね…3日。3日の時間を頂けませんか』
本当はそれでも足りないけれど、作る機会を頂けるだけでも相当な無理をお願いしているのは承知している。
だからといって、ただ私が作ったものを食べて頂くだけでは意味が無い。私はこの方に、【カタクリ様の為に作ったドーナツ】を食べて頂きたいのだから。
「…何が目的だ」
『私は自分が作るお菓子が万人を虜にするものと思っているわけではありません。あくまでも私は貴方の為に、カタクリ様の好みに合わせたドーナツをお作りしたいんです。…それに、人生最後のドーナツですから。私の人生最高傑作にする為にも時間が欲しいんです』
「……」
『…お願いします』
目を伏せて、数秒の後。
深い溜息と共にカタクリ様は頷いてみせた。
「…………わかった、好きにしろ」
『…っ!!ありがとうございます!!』
嬉しさのあまり思わず涙ぐむ。良かった。後はカタクリ様が喜ぶようなドーナツを作るだけ…!
どんなドーナツにしよう。どうすれば喜んで貰えるだろう。死ぬという事実は変わらないのに、こんなにも嬉しくて仕方がない。
「っ、ただしおれの秘密を他の人間に知られるわけにはいかない。お前に自由はないと思え」
『ええ、わかりました。よろしくお願い致します、カタクリ様』
そうして私の願いと罰の執行には猶予が与えられた。
私の願いが叶うまで、私の命が終わるまで――あと3日。
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時