欲と見解の差異 ページ6
「なんだと…?」
『ドーナツを!私のドーナツを献上することを、私が貴方の為にドーナツを作ることを、お許し頂きたいんです…!』
そう。カタクリ様の食事シーンを見て、私の中にひとつの願いと欲が生まれてしまった。
【私もカタクリ様に自分が作ったドーナツを召し上がって頂きたい】。
あんな姿を目の当たりにして、私は今回手伝いでしかなかったことを本当に悔しく思った。
自分の作ったお菓子を食べて喜んで貰いたいというのはパティシエならば誰もが抱く欲望だと思うけれど、私はきっと、誰よりこの人の喜んだ顔を見たい。私の手で、私の手が、あの笑顔を引き出したい。
―そんな欲が、あの瞬間一気に暴かれてしまった。
確かに私はお菓子を食べて幸せそうに笑う人の顔が好きだけれど、これ程強い感情は知らない。
どうしても、もう一度見たい。それも私のお菓子で。
「美味いドーナツを献上すればおれに許して貰えるとでも?」
『えっ?いえそんな!違います!殺して頂いて構いません。ああいえ、死にたいわけでは決してないのですけど』
違う。私はカタクリ様に自分の罪を許して欲しいわけじゃない。ましてや、ドーナツをその道具にするつもりも毛頭ない。
『ただ、思ってしまったんです。あんな風に食べて貰えるのが、どうして私のお菓子じゃないんだろうって。嫉妬してしまったんです』
「嫉妬だと?」
『身の程知らずは承知の上です!ですが死ぬことより、貴方に食べて貰えないまま死ぬことの方が、ずっと…受け入れ難くて』
「そうじゃない。さっきのおれの姿を見て、何を嫉妬する?醜くみっともない姿だ、そうだろう」
ドーナツを食べていた時よりは普段に近い、けれど困惑したように崩れた表情でカタクリ様が言う。
断定的な物言いに、困惑するのはこちらの方だ。
『醜く…みっともない?…あの、みっともない醜態を晒したのは私の方だと思うのですが…』
どう考えても。初対面の、それも立場の大きく違う人物を相手に興奮して醜態を晒して。思い出すだけでも死にたくなる程恥ずかしい。ああでもこれから死ぬんだっけ。
『もう殺されるのは変わりませんし、畏れながらもう一度申し上げるなら、カタクリ様の召し上がる姿程、心を奪われるものはありませんでした。その…とても、可愛らしくて』
「な…っ!」
カタクリ様の顔が真っ赤に染まる。え、まさか照れ…?
『かわ…ンン゛っ!そうではなくて!…とにかく私も、貴方に食べて欲しくて仕方がないんです。私のお菓子を』
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時