甘い侵食 ページ44
(お前も、泣くことがあるのか)
Aの涙で顔が濡れた時、カタクリは不快よりも先にそんなことを思った。
―この3日間、こいつの笑顔ばかりを見てきた。
顔を合わせれば笑って。話すだけで笑って。【可愛い】だなどと言う時は、とびきり幸せそうに。
自分が死ぬと自覚していて、殺すのがおれだとわかっていて、それでも表情ひとつ変えずに死を口にする。
暗い顔など、おれの心配をする時くらいのものだ。おれに何かあると自分のことのように痛みに顔を歪ませる。
(…今度も、そうなのか)
お前が泣くのは死への恐怖ではなく、おれの幸せを望めない自分が嫌だから。おれにお菓子を作り続けたいから。―おれとの時間が、幸せだから。
(本当にお前は)
いくつも落ちてくる涙の内のいくつかが、口にまでつたって流れ込む。
さっきまで甘さで満たされていたというのに、塩分で侵食されていく。
甘くない。甘いわけがない。それなのに。
(お前はあまりにも…おれにとって甘すぎる)
禁断と背徳が美味くしたのだと思った。お前が込めた愛情が美味くしたのだと思った。
だがそれ以上に、それ以前に、お前という存在が甘かった。
突然現れた女に、気付けばこんなにも侵食されている。
(だが、『貴方の為だけにお菓子を作り続けることが出来たら』か。……良かった)
恨まれると思っていた。
「おれの為だけに作れば良い。これからも、ずっと」
おれがこんなことを言えば。
『カタクリ、様…?』
「自分だけが幸福だったとは随分殊勝なことだ。こんなに美味いものを食わせておいて、今更それ以外を至福だと思えるわけがない」
未だ止めどなく流れる涙を止めようと手を伸ばすと、止まるどころか更に溢れ出してくる。
その分おれの顔を濡らすのにまったく不快に思わないのは、きっとおれもどうかしているせいだ。
『…私、よろしいんですか?これからも、カタクリ様に私のドーナツを?』
「ああ。…だから泣くのをやめろ」
『…!ごめん、なさ…っ、でも私嬉しくて…嬉し過ぎて…っ!』
お前はやはりパンドラだ。お前を生かすことはおれにとっての大きなリスクだというのに。
―それなのに、それ以上を期待させるのだから。
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時