最強をダメにする最弱：１

雨 ページ43

「……」

カタクリ様の目が見開かれたまま、少しだけ揺れている。

重かったかな。重かったよね。でも全て事実。だから私は、貴方をお菓子で幸せにすることに命以上の価値を思ったのだから。
重かろうが不敬だろうが、もう罰は決まっている以上、私の感情を裁くことは誰にも出来ない。

『だから決して…』

【恨んだりしません】と言いかけて、私は口をつぐんだ。
そうだ。私の感情はもう、誰にも裁くことが出来ない。

「…？おい、どうし…、っ！」



―ぽたり。



『ごめんなさい、カタクリ様』

ぱたぱたと、雨が降る。社の中に雲があるわけがないのに、雨はただカタクリの顔を静かに濡らす。

『…やっぱり私、恨みます。貴方のこと』

Aの目からは、いくつもの大粒の雫がこぼれ落ちていた。



(幸せだった。幸せ過ぎて、夢を見ているんじゃないかって、もう既に私は死んでいて天国にいるんじゃないかって、そんな風に錯覚する程幸せだった)

けれど―いや、だからこそ。

『私っ、最期はきっと、カタクリ様の幸せを望みたいって、そう、思っていたのに』

涙が止まらない。こんなつもりじゃなかったのに。私はただ、ドーナツでカタクリ様を幸せにして、それで私が幸せになって、それだけで良かったのに。

『こんな風にずっと、貴方の為だけにお菓子を作り続けることが出来たらいいのに、なんて、私、欲深いのなんて嫌、なのに』

知らない。私はこんな私を知らない。嫉妬も欲も、カタクリ様に出会うまで全然、知らなかったのに。

『こんなに幸せで、幸せなまま死にたいのに、幸せだから死にたくない、なんて、変です私。変なんです。全部貴方の、貴方に出会って…っ』

自分の涙で濡れてしまったのを拭おうと頬に触れると、余計に欲が大きくなる。
1度決壊した涙も止められなくて、私はただただ自分自身に戸惑っていた。

『幸せ過ぎて私、綺麗に死ねないんです。だから恨みます。ごめんなさい、私、こんなに自分が醜いとは、思わなかっ』

―こんな苦しみも、貴方に出会うまで知らなかった。

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