完璧じゃない ページ5
「は…?」
到底信じられない言葉に、カタクリは殺意の行き場を失った。
怒り。動揺。困惑。
その全てによって冷静さを奪われ、未来を見る余裕を取り戻せそうもない。
『ドーナツしか見えていないのも、枕がドーナツなのも、大きなドーナツを頬張るお口も、なんて、なんて可愛いの!』
「!?」
『それに、食べかすや紅茶をこぼすのも気に留めずに…!』
「恥だと言」
『本当に可愛い…!格好良くて、クールで、ストイックで、皆から尊敬されている方が、その上こんなに可愛いなんて、全然完璧なんかじゃないじゃないですか!』
「っ、何を、言って…っ?」
『完璧以上…いえ完璧と言われてる方だからこそのギャップ?ああもうとにかく素敵すぎて!可愛くて、可愛すぎて…どうにかなってしまいそう…!』
「一体お前は…!」
口を挟む猶予すら与えず、Aは頬を紅潮させながら【可愛い】を繰り返す。
カタクリにしてみれば突如ドーナツの山から現れた女が自分のことを可愛い可愛い言っているこの状況。48年の人生の中でこれほど理解不能なものはないだろう。
『はぁ、こんなに美味しそうに食べて貰えて、パティシエとしてこれ程幸せなことはないです…』
「!お前、今日のドーナツを手伝ったという旅行者か!」
『はい!気を失ってカゴの中に入ってしまったとわかった時はどうしようかと思いましたが、こんな素敵なことがあるなんて思わな――ハッ!?』
興奮のままに捲し立てて、Aはようやく我に帰った。
紅潮した頬が再び青ざめる。
『わ、私はなんてことを…!いくらときめいたからって、謝罪もなしに失礼なことばかり…!』
事の重大さに、尋常じゃない冷や汗が流れる。
『本当に申し訳ありません…!どんな処罰も受けます!ですが、どうか罰は私だけに…!』
「あっ、ああそうだ、おれの食事シーンを見た者は誰であろうと殺す…!」
『っ!』
【殺す】。冷たい単語が心臓に刺さる。当然だ。私はそれだけのことをしてしまったのだから。
「一突きだ。ドーナツを血で汚すわけにはいかない」
そう言ってカタクリ様が槍のようなものを作り出す。…私、ここで死ぬんだ。
ああでもこんな人に、あんな風に幸せそうに食べて貰えたらどれだけ…―
―…あっ。
気付いてしまった。【死にたくない】より望んでしまった。夢見てしまった。
そうしたらもう、願わずにはいられない。
『…あの!』
「まだ何か言う気か!?」
『殺す前にどうか、私のドーナツを食べて頂けないでしょうか…!』
1090人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時