おやすみなさい ページ34
『これが明日ご用意頂きたい食材のリストです。よろしくお願いしますね』
「ああ。確かに受け取った」
部屋へと戻った私は、昼間に書いておいたメモをカタクリ様に渡した。本当に明日が、最期の日だ。
『カタクリ様、眠る前に少しだけよろしいですか?』
「…なんだ」
『明日この言葉を伝えられるかどうかわからないので、今の内にお伝えしておきたくて』
「…だから、なんだ」
決して苛立っているわけではない、カタクリ様の催促の声。
私は温かくなった心のままゆるく微笑んで、3日間そうしてきたようにそのお顔を見上げる。
『…本当に、ありがとうございます』
心から。届くように祈りながら言葉を紡ぐ。
『私の願いを聞き入れて下さって。私と言葉を交わして下さって。優しくして下さって。真摯でいて下さって。カタクリ様と出逢えて私は、とても幸運でした』
他の誰でもなく。貴方で。
『私は貴方の48年間を知りません。世界中の価値観を知りません。ですから私の感じたものがそのまま正しいとは言いません。―けれど、私は断言します。貴方は私が今まで出逢った誰よりも素敵な方だと!』
「…っ!」
『…お伝えしたかったのはそれだけです。お時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。…どうか、今夜はゆっくりお休み下さいね』
「…、ああ。そうすることにしよう」
『良かった。…では、おやすみなさい。カタクリ様。良い夢を』
「ああ。……おやすみ」
そうして私は白の世界で眠りについた。
恐怖に苛まれることのない、穏やかな眠りに。
「…っ」
閉じたクローゼットに手をついて、カタクリは苦悶の表情を浮かべていた。
(結局のところ、こいつに真意などはなかった)
最初から何を隠すでもなく、ただただ正直だった。
どれだけ受け入れ難くても、否定する方が愚かな程に。
(殺すんだぞ。おれが、お前を)
それなのに、お前は。
仕舞い込んだ白い箱を見つめる。
これはおれにとってのパンドラだ。開けるには危険が伴うだろう。
―それでも最後に、残るものがあるならば。
じわりと広がるような温もりと、焼け焦げるような熱から逃れるように、クローゼットを後にする。
椅子に腰かけると、瞼が自然と落ちていた。
最後の夜が、更けていく。
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時