最強をダメにする最弱：１

童の話 ページ29

『またひとつカタクリ様のことが知れて、嬉しいです』
「っ、は」
『傷跡なんて見られて気分の良いものではないでしょうけれど、ドーナツを作る前にもう一度拝見出来て…すみません、嬉しいと思ってしまいました』
「違う、そうじゃない」
『え？』

何も違うことはない。素顔を見た瞬間、知らなかったものを知れたことが嬉しくて、それと同時に、傷を見て喜ぶなんてと自分を恥じた。
だからその罪をカタクリ様は暴きたいのだと思ったのだけど…。

「…ハァ。口が裂けているんだぞ。バケモノのようだとか、恐いとか醜いとか言わないのかと聞いているんだ」
『…？』
「お前のその顔は本当に腹が立つな」
『す、すみません。…でも、その腹の立つ顔でカタクリ様は笑って下さるんですね』

呆れられているのだとしても、悲しい顔よりずっと良い。

「…」
『恐いかと言われても、痛そうだなという以外には特には…』

でも他にも感想が求められているんだとすると、何か言わないといけないだろうか。
私はカタクリ様のお顔を改めてじっと見る。睫毛が長い…ああいやそうじゃなくて。他に…

『つ、強そう…！』

―子供か!!

絞り出した感想に思わず自分でツッコミをいれる。いやでもそれ以外に浮かばない。
とうとう呆れが前面に押し出されていそうなカタクリ様の表情に焦りを覚える。私は望まれている回答が出来ない…！

『ええっと、あとはそうですね…あっ！』
「！なんだ、似ている魚でも思いついたか」
『魚？魚ではないですけれど、似ているものなら！狼さん！』
「狼…？それは初めて言われたが、成程口が大きく獰猛な…」
『あっ、普通の狼ではなくて』
「？」
『【赤ずきん】って知っていますか？』
「…知らないな」
『赤ずきんはですね、おばあさんの家にお見舞いに来た赤ずきんが、森で狼に出会う話なんですけど…』

私はカタクリ様に赤ずきんのあらすじを説明する。

おばあさんのお見舞いに来た赤ずきん。そこにはおばあさんの服を着た狼。
赤ずきんは狼に問いかける。
「おばあさんはどうしてそんなに手が大きいの？」「お前を抱けるようにだよ」
「おばあさんはどうしてそんなに口が大きいの？」「お前を食べるためだよ」
そう言って狼は赤ずきんを食べてしまうのだけれど…。

『赤ずきんをドーナツに置き換えたら、まるでカタクリ様のようだなって。カタクリ様はきっと、大きなドーナツを食べる為にそんなにお口が大きいのですね』

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