最強をダメにする最弱：１

慈しむ瞳 ページ26

『おはようございます、カタクリ様』
「…ああ」

小豆色の髪が、外の光に照らされてピンク色に見える。
人が太陽が昇ることを朝だというのなら、朝一番に見るカタクリ様は私にとっての太陽だ。
眩しくて、冷えた心が温かくなる。

心を凍てつかせる恐怖こそ、貴方がもたらす死だとしても。

―こんな朝も、あと1日。



『昨夜も立ったままお休みに？』
「…昨日は椅子だ」
『大して変わりません！…今すぐにとは言いませんが、検討して頂けませんか？ソファから…ううん、クッションを使うところからで構いませんので』
「本当に命知らずだな。よくもそうおれに文句が言えるものだ」
『死にますからね』
「……そうだったな」

それだけではないけれど。もう死ぬから怖いもの知らずな態度がとれる。それもあるけれど、私が死んだ後も健やかに、幸せであって欲しいと―そう願わずにはいられないから。

城勤めですらないパティシエで、3日間猶予を貰っただけの罪人ごときにと思われているかもしれないけれど…違う。そう思っているのは私の方。身の程知らずと分かっていて、それでも勝手に心配しているだけ。

(【死んだ後も】なんて、ドーナツで幸せにする自信はあるみたいな言い方)

我ながらなんて傲慢、なんて横暴。
カタクリ様の言う通り、私はきっと異常なのだろう。

「だが、生憎今日は忙しい。昨日の続きには付き合わんからな」
『え？』

昨日の続き？

「お前のことだ。また休めないならマッサージをとか言うつも、り…」

予想外の言葉に驚き、それから意味を理解した私の目が期待で輝く。
それに気づいたカタクリ様が、失言だったというようにぐうっと苦々しい顔をする。

「…っ！その顔をやめろ。期待していたわけではない。おい、やめろと言っている」

くすくすと、抑えようとしても笑いが溢れてしまう。だってこんなの嬉し過ぎるでしょう。

『期待なんてしてくれなくて良いですよ。でも、ほんの少しでも私の言葉を覚えて下さるなら、やっぱり遠慮しなくて正解みたいですね？』

へにゃりと笑ってそう言うと、だらしのない顔になっていたんだろう、カタクリ様に顔を逸らされてしまった。いや、当てが外れたことに対する照れ隠しかもしれない。
どちらにしても、この顔の緩みはどうにも出来ないので諦めて頂くしかないのだけど。

『何度も言いますが、どうかご自分を大切になさって下さいね。ご自分の為にも、カタクリ様を慕う者の為にも。私もその一人なんですから』
「…何故だ」

理由→←包み込むように柔らかく

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