とびきりに甘く ページ17
『…なんて、夜更かしさせてしまっている私が言うことじゃありませんでしたね』
移動中は特に何事もなく、袋から出された時には調理台の上。私は自分の発言に苦笑しながら調理台を降りた。
昼間に来たとはいえ、深夜の厨房は大分雰囲気が違う。こうして微かな明かりを頼りに厨房にいると、いつか仕込みで居残りをした夜を思い出す。
『でも今夜は早くお返し出来ると思いますので、お戻りになったらゆっくりお休み下さいね』
カタクリは何もこの時間まで働き詰めだったというわけではないのだが、それを知らないAは自分が振り回してしまっていることも含めて眉を下げた。
「『器材と材料の確認』。そんなことだけで良いのか。試作品でも作るかと思ったが」
暗に【時間がないんじゃなかったのか】と言われている気がする。
『3日間ずっと厨房で作っていられるわけでも、欲しい材料が全て手に入るわけでもありませんしね。闇雲に作ったって仕方ありません。それなら私に許されるものと私が出来ることを、今まで積み上げたものから選んで練り直す方が効率が良いかなと』
「ただのおかしな女だと思っていたが、お前もパティシエだな」
『…う、確かにお恥ずかしいところばかり見られている自覚はありますが、パティシエですよ?そうでなければ軽々しく【最高のドーナツを作る】なんて言いません』
厨房の戸棚を開けて周りながら、私は壁に背を預けるカタクリ様に笑ってみせる。
『【カタクリ様のことを教えて頂ければその分美味しいドーナツが作れる】というのはそういうことです。それに、気持ちもこもりますしね!』
「気持ちだと?」
『ええ。嫌いな相手や憎い相手に美味しいものは作れません。少なくとも私はそうです』
「…材料は前日までにリストを作っておけ。相当珍しいものでもなければ、万の国で手に入らない食材はない。食糧庫に連れて行くのはリスクが高い」
『え?あ…見聞色…』
食材があまり見つからなかったので【食糧庫があるなら覗きたい】と言おうとしたのを見破られたみたいだ。度々こうして言動を先回りされるのはやっぱり変な気分。
未来が見えるなら危険を察知して回避も可能?だとすれば、カタクリ様はその上で更に用心を徹底されているということに…。
「余計なお世話だ」
『ずっと気を張ってお疲れになりませんか?…心配は、やめろと言われてやめられるものではありませんから』
幸いにも私は疲れをとるものに当てがある。―とびきりを用意することにしよう。
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時