最強をダメにする最弱：１

白紙のレシピに ページ15

着替えを済ませてカタクリ様の元に戻り、カタクリ様と同じくらいの高さがあるクローゼットの中へ。先程と同じように周囲をおもちで覆ってもらう。

周囲に手を這わせ、どれくらいの広さがあるのかを確かめる。
カタクリ様がメリエンダに使われた社は【社】というだけの造りをしていたのだと想像するけれど、私が今いる空間は影も何もない空間。不思議なことに真っ暗ではないから、自分の手元などはしっかり見える。

(高さは立って腕を伸ばすと当たるくらい。広さはちょっと歩き回れるくらい…かな)

牢屋に入った経験はないけれど、広さはそれに近いだろうか。これがクローゼットの中だというのだから驚きだ。



カタクリ様が戻られるまでに今日のことを整理しよう。
今日のことを…

(こ、濃過ぎる…！)

色んなことが起こり過ぎて、情報量の多さに頭が痛くなる。

けれど、カタクリ様について知った多くは【知れて良かった】と思えることばかりだ。
【知りたくなかった】と思うものはない。気になることならひとつだけ。

(お話した感じだと、カタクリ様はご自分が食事をするところを隠している…のかな？どうしてなんだろう、あんなに可愛いのに。でも食事シーンを話題にするカタクリ様の表情は…)

思い出すと胸が痛む。何も知らないのに。何も知らないから？

『…』

(―私はとにかく、3日後のことだ)

沈みかけた気持ちを振り払って、私は頭の中にレシピを広げる。

ドーナツが一番お好きというのはご本人の口から聞けたので間違いない。

今日作ったのはダブルチョコレートとグレーズドーナツ。
どちらもシンプルなドーナツで、チョコレートはともかく、グレーズドーナツはかなりコーティングが厚かった。
召し上がったタイミングは分からないけれど、常に声は嬉しそうだったし、ビターよりスイートがお好きなのだと思う。中でもどれくらいの甘さを一番好まれるかが課題かな。

食感。しっとりしたココア生地。いわゆるオーソドックスなふわふわのイースト。
毎日ドーナツを食べているとしたら、今日のドーナツが一番のお気に入りである可能性は低い。
ドーナツと一言で言っても種類は無限に近いし、1種類だけを作るわけにもいかないから、組み合わせた時の相性も視野に入れなければ。

他にも…

『ふふっ』

こんな風にただ一人の為だけにあれこれ考えるのはいつ振りだろう。
こんなに楽しかっただろうか。こんなに幸せだっただろうか。

―ああ。お菓子はやっぱり人を幸せにしてくれる。

片隅に巣食う→←それが異常であっても

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