最強をダメにする最弱：１

呼ばれた先は ページ1

甘いお菓子が好きで、甘いお菓子を作りたくて。
そんな思いでやって来たホールケーキアイランド。

諸国漫遊中の身なので、私は住民ではなくあくまで旅行者という位置付けだ。

でも一か月滞在してみて、なんて夢のような国だろうとつくづく思う。
お菓子で出来た国、皆がお菓子を愛する国、色んな種族を受け入れる国。
住民になるには寿命を定期的に女王ビッグマムに支払わなければいけないということだけど、それが惜しくない程にこの国は魅力的だ。



そんな風に思い始めたある日、滞在中に仲良くなったパティシエの人からホールケーキ城まで呼び出された。なんでもパティシエが一人病欠で、王族の方に献上するお菓子作りを手伝って欲しいとのこと。
シャーロット家の皆様は女王ビッグマムをはじめどなたも大量のお菓子を召し上がるらしく、一人休むとそれだけで人手が足りなくなってしまうらしい。



「おお、A！来てくれたか！」

門には待ちかねた様子のパティシエが。
私の姿を確認すると、すぐに警備の人に話を通して城の厨房へと私を招き入れる。

『いつもお世話になってますから。それで、何を作るんですか？』
「ドーナツだ」
『ドーナツ！』

それを聞いて納得した。ドーナツは時間が命。出来たてを一度に大量にとなるとどれだけ準備をしても最後は作り手の数がものをいう。

今は2時過ぎ。ということは…

『3時のおやつですね？』
「ああ。なんとしてもカタクリ様のメリエンダに間に合わせなければ」
『えっ！』

呟きに返ってきた言葉に私は驚く。
カタクリ様といえばシャーロット家の次男で、とても強く、ストイックな方と聞いている。
遠目でしかお顔を見たことはないけれど、確かとても大きな身体で背筋の伸びた方だった。

そして何より、皆から尊敬されていた。

(部外者の私が手伝って良いのか不安になってきちゃった)

けれど引き受けたからには後戻りは出来ない。何より、お菓子を作る上で食べる人をがっかりさせるようなことは絶対にしたくない。

お菓子は人を幸せにするものだから。

想像する。出来上がったドーナツを。

想像する。食べてくれる人の姿を。

カタクリ様はどんな方なんだろう。ドーナツがお好き？それとも今日はたまたまドーナツを？どんな味付けを好まれて、どんな顔で食べるんだろう。
ほんの少しでも、お菓子に幸せを感じてくれる人だと良い。それに気付いてくれる人だと…いいな。

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