【短編集】あの世界にもしもがあるのなら【沼男は誰だ？】 (ページ2)

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あなたにもう一度。ページ2

私は春の事が好きだ。
そう気づいたのはいつだったろうか。
出会ってから幾度となくタッグを組んで事件を解決してきて。
「気づいたら好きになっていた」というありふれた理由。
でも告白はできなかった。
いつでも会えるんだからとのばしのばしにしてきたから。
やっぱりうまくいかなくて今の関係から気まずくなるのも嫌だから。
案外助手と探偵というこの距離感も悪くないから。
そんな言い訳をして、私はいつものように仕事を春に押し付け、頼み込んで、私はその近くでのんびりと過ごすのだ。
この幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。
これがいつか終わるかもしれないというのは頭の片隅にあったが、それから目を背け現状に甘えてきた私は、神様のお気に召さなかったのだろう。

さよならは唐突だった。

命の危機に晒され、どうなるかと思われた事件は、全員生還で幕を下ろしたはずだった。
そして、今までと変わらない日常が戻ってきて、これからも春と共にと事件を解決していくのだろう、と次なる事件捜査に少しだけ楽しみを感じていた矢先の事だ。

春は、探偵事務所を辞めると言い出した。
理由を聞こうにも口を割らず。
説得しようにも決心は揺るがないようで。

私に向けて何度も謝って、正義を曲げないでと言い残して出ていった。
唯一残ったのは手のぬくもりとペンダントだけ。

喉元まで出かけていた「好き」は、彼にむけて紡がれることはなく、彼が去ってしばらく経つとようやく零れ落ちた。
出ていく彼を追うなどということは、もうできやしない。
そこからは押しとどめていた感情が堰を切ってあふれ出し、私はひたすら泣いた。
泣きながら思った。

こんなことなら。
もっとはやく言っておけば。
好きだと伝えておけば

そう後悔しても、もう遅い。

私はきっと最後のチャンスすら逃した。

ほんとうに春はずるい。
消息を絶って、数年たってなお私の心を掴んでやまないのだから。

それなら責任取ってよね。
あれで最後だなんて許さない。
最後になんてさせない。
チャンスは掴みに行くものだっていうじゃない。
私の地獄耳から逃れられると思わないことね。
必ずもう一度会って、あなたに言ってみせる。

好きだ、って。