【短編集】あの世界にもしもがあるのなら【沼男は誰だ？】 (ページ1)

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置き手紙でさようならページ1

ミミは、正義を曲げたことがない。まだ清くて、汚れを知らない。
そんな人の隣に、一度でも正義を曲げて汚れた自分は、いてはいけないのだ。
もし自分が正義を曲げたことを知れば、スワンプマンの母体を殺せなかったということを知れば。
ミミは、自分の選択をきっと責める。
これからも血の池事件が起こり続けることを知って。
責めて責めて責めて、自分がなぜついていかなかったのかとさらに悔やむのだろう。

だから、俺が全て持っていく。
あの世までも持っていくよ。

もし母体を殺していれば、二人でずっと探偵事務所をすることもできたかもしれない。
でも自分のした選択に後悔はない。
これでよかったんだ。

もしミミが死んでいたら、俺にとって取り返しがつかないのだから。
俺はそれが怖い、ミミがいなくなるのだけが怖い。
大切で、大好きな彼女がいなくなるのだけが怖い。
自分自身がどうなろうともかまわないが、それだけは嫌だ。
たとえ離れたとしても、もう会えなくても、ミミがいるだけで、存在しているというだけでいい。
もし彼女が偽物でも。
失うのだけは嫌だ。
命あっての物種とはよく言ったものだ。
まったくその通りじゃないか。

そうひとりごちて、目を伏せた。

ひとつだけ、願いたい。
欲張りなようだけど。
君の行く先が、君にとって後悔のないものでありますように。
君がいつまでも清くいてくれますように。
そう祈って、俺はペンダントを添えた置き手紙をそっと置いて、誰もいない探偵事務所を後にした。

「さよならミミ。
＿＿＿＿大好きだよ」

出がけにそっとつぶやいたその言葉は、誰に拾われるでもなくゆっくりと溶けていった。