[Lover’s Holiday : type Motoki] ページ8
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「ごめんね?ほんっとにごめんなさい…」
舗装された冷たいアスファルトの上を歩く自分のブーツの爪先を眺めながらそう唇を動かせば、吐息で視界が白く覆われる。道行く人々はどこか足早で、行く先々でそれぞれに大切な人と大切な時間を過ごすのだろうかと思うとそんな日に失敗をしてしまった自分が情けなくて溜め息しか出てこない。
「だぁから大丈夫だって、全然気にしなくていいのに」
ふわりと綿花の咲くように笑うモトキの優しさが普段はとても好きだと思うのに、今はだた申し訳ない気持ちが積もっていく。
動画クリエイターとして活動する彼と付き合い始めて初めてのクリスマス。
多忙ななか「来年はわからんけど」と時間を作って一緒に過ごそうと来てくれた彼を持て成すつもりで必死に本を見ながら作った丸鶏のローストチキン、手伝おうかとキッチンを覗き込む彼をリビングに押し返す背後で気付けばオーブンの中で真っ黒な塊となっていて、慌てて取り出したもののとても食べられる出来ではなく、追い打ちをかけるようにチキンに気を取られている間火にかけっぱなしだったクラムチャウダーは見事にその大半が鍋から吹きこぼれていた。
「だって…」
唯一食卓に出せるとしたらサラダとバケットと小さなケーキだけになってしまったのを責めることなく、残ったものは明日の朝食にして今夜は食べに出ようとあっさりとコートに手を伸ばした彼の寛大さはとても年下の男の子とは思えず、私を締め付ける恥ずかしさや罪悪感を緩々と和らげさせる。
「ほら、いいからお姫様はこちらにお乗りください、ってね」
マンションから程近くの駐車場にいつもの如く駐められた愛車の助手席ドアを恭しく開く彼にくすりと笑いながら乗り込めば「ようやく笑った」と彼の五指が私の前髪をくしゃりと撫でた。
「なんだか本当にダメだね、私って。これじゃあどっちが年上だかわかんないな」
乱れた前髪を直しながら、運転席に乗り込んだ彼を見遣るとその垂れた目を細めくつくつと可笑しそうに肩を揺らしながらエンジンをかけていて
「どっちが年上って今更…実際俺のほうが年が上でも下でもAさんがドジなのに変わりはなくねぇ?」
なんて軽口を叩いてはちらりと横目で私を眺めた。
「なっ…それは、そう…だけど」
反射的に反論しようとしてうまくいかず尻すぼむ私の言葉にさえ「なにそれ、すげぇ可愛いんですけど」だなんて彼が当たり前のように言うものだから、毎秒のように私は彼に恋をしてしまう。
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月雲(プロフ) - coyumaさん» coyumaさん、読んでくださってありがとうございます。柔軟な包容力で愛してくれそう、と書いたのでそれが伝わって嬉しいです。また来年もお付き合いくださいね。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 27315dcb3c (このIDを非表示/違反報告)
coyuma(プロフ) - モトキくんの柔らかな包容力を堪能できました!ほろりと幸せな気持ちになれました。 (2019年12月30日 16時) (レス) id: 96592c7e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月雲 | 作成日時:2019年6月19日 23時