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翔「A」
呼ばれて振り返った、視線の先。
水色のシャツにベスト付きの紺色のフォーマルスーツ姿の櫻井先生が、私を見て軽く片手を上げた。
あぁ…。
私がこれを思うのは、もう何度目かわからないけど。
今日も倒れそうなほどかっこいいです、先生。
ばさっとスーツを羽織り直しながら、俯きがちに歩いて来るその姿に見惚れながら、たらっと緩みそうな頬をきゅっと正す。
翔「お疲れ」
「こんばんは」
翔「昨日何時までやってたの？」
「あ…21時過ぎくらいです」
翔「ん。顔出せなくて悪かったな」
「いえ、せん…」
―― "会場では、俺のこと『先生』って呼ぶなよ"
「…翔さんも、教育委員会の会議お疲れさまでした」
翔「あぁ。じゃあ行くよ」
「はい」
…なんか先生、今日いつもとちょっと雰囲気違う。
言葉も口調もいつもより優しいし。
今だって、私の歩調に合わせてちょっとゆっくり歩いてくれてる。
感じたことのない柔らかさにドキドキしながら、前を行く先生の背中を追いかけた。
【Blossom Hotels ROMA オープン記念パーティ】
入口をくぐるとそこは、大きなシャンデリアが煌めく大広間。
立食テーブルに置かれた、色とりどりの豪華なオードブル。
VIPなオーラを纏う人たちの視線を浴びて、その間を悠然と歩きながら、
ため息が聞こえそうな女性からの熱い眼差しと挨拶に、必殺の優雅な微笑みで答えてる。
…ただ歩いてるだけでそんなにかっこいいとか、何事なんですか。
こういう先生を見るのはひさしぶりだけど。
立ち振舞いも、物腰の柔らかさも。
"こういう世界で生きる為に生まれて来ました" って、身体が言ってる。
"いるべくしてここにいます" 感が、全身から溢れてる。
……それに比べて。
先生の後ろにぴったりくっついて、所帯なさげに俯いて。
周りからの、口には出さない「誰？」っていう好奇に満ちた視線に、どんどん委縮していく私。
こんな煌びやかな場所に私みたいな小娘、浮きまくってるんじゃ…
ただ爪先だけを見つめて歩いてる私の前で、不意に先生が立ち止まって。
すっと、大きな手が私の背中に優しく触れる。
翔「…緊張してんの？」
「っ…ぃえ」
翔「大丈夫だよ」
私を見下ろす先生の瞳が、優しく揺れて。
翔「お前は、ただ俺のそばにいて」
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
