▼380 Side.Miyuki ページ12
雅「ねぇねぇ今日はねっ、俺の彼女連れて来たのっ!!」
嬉しそうに言って、おいでおいでって雅紀が手招きする。
その手に応えて、まりさんが少し恥ずかしそうに雅紀の横に立つ。
雅「俺の彼女のー、まりちゃんっ。めっちゃ可愛いでしょっ」
まり「…っ」
雅「まりちゃん。俺の恩師の、大ちゃん先生っ」
まり「…はじめまして」
小さく会釈するまりさんを見下ろして、うんうんって満足そうに頷いてる雅紀。
雅「大ちゃん先生がいなかったら、俺とカズはミュージシャンにはなれてなかったの」
まり「そうなんだ」
雅「だからきっと、まりちゃんにも逢えてなかった」
まり「…っ」
雅「俺たち2人にとっても、大事な先生なんだよ？」
まり「うん」
へへって顔を見合わせたあと、2人で先生を見上げて。
「ありがとうございます」って呟いたまりさんの頭を、雅紀が愛おしそうに撫でる。
和「はいはい。それ以上いちゃいちゃするとその人拗ねちゃうから」
雅紀の身体をぐいっと押し退けたカズが、「お参りの前にまず墓掃除でしょ」って言って、
ほとんど汚れてない墓石を、雅紀とカズと潤くんと私でさらに磨く。
和「じゃあお参りしますか」
ぴかぴかの墓石の前でカズが微笑んで、「美雪」って、私を隣に呼ぶ。
カズとは、付き合ってからもう何度も2人でここに来てて。
婚約したことも、もう伝えてある。
和「俺たちからは、今日は花だけね」
そう言って微笑むカズの左手には、季節外れのコスモスの花。
私の右手には、真ん中が白で赤い花びらの、アネモネの花束。
和「俺は先生に会ってなくても美雪と逢えたし、先生がいなくてもミュージシャンにはなれましたけど」
天邪鬼な顔で雅紀をちらっと見て。
俯いて、ふふって笑って。
和「先生がいなかったら…。こんなに幸せには、なれなかったかな」
美雪「…っ」
和「感謝してますよ」
涙ぐむ私の頭を撫でて、「この子いただけましたし」ってカズが呟く。
ねぇ、先生。
先生が私の前からいなくなってから。
ここに来て、先生の前で悲しくない涙を流したのは。
今日が、初めてだね。
これからはずっと、こういう涙を見せられるようにするね。
嬉しくて幸せな、涙だけにするね。
そうしたら先生は、「泣くなや」って言わないで。
私の大好きな、あの木漏れ日みたいな笑顔で。
「いーよ」って、笑ってくれますか。
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
