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【第十八期 喜多川学園高校 卒業式】
真っ白な看板に書かれた文字に胸をぎゅっと締め付けられながら、くぐった校門。
目覚ましが鳴るずっと前に目が覚めて。
いつもよりも30分以上早く着いた、まだ人もまばらな中庭を1人横切る。
今日が、櫻井先生の生徒でいられる最後の日。
―― "…もう離れなくていいんですよ？"
そう言われたあの日から、1ヶ月。
それは夢じゃなくて。
先生は本当に、私のそばにいてくれる。
受験の追い込みや合格発表、新1年生の入学試験。
それが終わっても、卒業式や入学式の準備で毎日忙しくしてる先生とはなかなか逢えないけど。
それでもたまに夜電話をくれたり、大学の講義でなにを取るか一緒に決めてくれたり。
そばにいられる幸せを、毎日感じてる。
「でもやっぱり、寂しいよね…」
1人足を踏み入れたのは、埃だらけの用具室。
体育館で卒業式の準備をしてる賑やかな音を階下に聞きながら、ぽつんと呟く。
ここが、始まりの場所だった。
私はここで。
櫻井先生に、恋をした。
この小さな窓から見た、奈緒ちゃん先輩の震える背中と。
その身体を引き寄せた、どこか冷めた目。
それまで見たことのなかった、だるそうな態度。
あの時この場所であの光景を見なければ、私は今きっとここにはいなくて。
今もまだ、この四角い空の中で生きてた。
この空から飛びだそうなんて思いもしないで。
言われた通りの人生を、幸せだと思って生きてた。
―― "…ガキくせーことすんなって、何回言えばわかんだよ、くそガキ"
ここで最後に逢った時の、雨に濡れた先生の掠れた声が耳に甦る。
先生は本当に私を、ここから連れ出してくれた。
四角い空から、私を引っ張り出してくれた。
「いつも、スーパーマンみたいに現れるんだよ」
どこからともなく現れて。
私を、正しいところへと運んでくれる。
いつだって私を、迎えに来てくれる。
「白衣に黒縁眼鏡の、スーパーマン」
呟いて、ふふって1人笑ったら。
？「だからあんな全身タイツと一緒にすんなって言ってんだろ」
……ほら、また。
翔「なに朝から1人で黄昏てんだよ、くそガキ」
振り向かなくてもわかる、めんどくさそうな声で。
だらっとドアに身体を預けた先生が、ふんって笑って私を見てた。
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
