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あれは、中等科2年の夏だった。

その日は長野への移動教室で、生まれてこのかた家族旅行しかしたことがない龍斗はとても楽しみにしていた。

初等科のときも修学旅行の時に限って体調を崩してしまうので、初めての皆との旅行になるはずだった。



「龍斗さん」

母親の小さな声で起こされる。もう、陽が高く昇っていた。

「朝ご飯、できていますよ」

「…今、何時ですか?」

「8時ですよ」


「…え?8時に学校に集合です。プリント、渡しましたよね?」


「旅行のことかしら?

龍斗さんは行かないですよ。大叔父様からのお達しです」


龍斗の頭の中で、思いが弾けた。


「……当日に言わなくてもいいでしょう!あんまりではないですか!楽しみにしていたんですよ」

「それでも、お体に障ったら…」

「…僕は元気です!!」

龍斗は家を飛び出して、学校へと走り出していた。

間に合うかどうかなんて分からない。

その時はとにかく逃げたかった。あの頭のおかしい家に生まれてしまった運命を呪った。



龍斗は携帯電話を持っていない。

部屋にはパソコンもテレビも、時計すらない。

龍斗の部屋にあるものはただの家具だけで、服も勉強道具もすべて管理されている。

自由に使えるお金なんてものもない。

寄り道も遊びも出来ないように。


それらはもう諦めていた。

けれど、学校行事くらい、諦めたくなかった。

何日も前から楽しみにしているのを、母も使用人も見ていたはずなのに。

当日に言うなんて、その小賢しさが許せなかった。





「はぁ……っ」

学校の前に、バスはもう無かった。母が欠席の連絡をしたのだろう。


龍斗は教師に、技術室で自習と言われて頷いた。

足取りが重い。


中等科に入った頃から、周りとの違いに気付き始めた。




その頃から、電車に乗るのが怖くなった。

食べたものを戻すようになって、体重がガクンと落ちた。

優斗の話は分かるのに、母の話は全て異国語のように聞こえた。


それらを級友には言えたのに、家族には全く話せなかった。大騒ぎになるのも、家が原因なのも、分かっていたからだ。

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LIKKA(プロフ) - わたがしさん» お返事遅くなり本当に申し訳ありません!ありがとうございます(TT) (2017年8月14日 9時) (レス) id: 101efce4a6 (このIDを非表示/違反報告)
わたがし - これからも頑張ってください!応援してます! (2017年7月24日 22時) (レス) id: 35ef0e40d0 (このIDを非表示/違反報告)
LIKKA(プロフ) - わたがしさん» 迷惑なんてとんでもないです。本当に嬉しいです。ありがとうございます!(><) (2017年7月24日 21時) (レス) id: 101efce4a6 (このIDを非表示/違反報告)
わたがし - 初めまして!すごく感動して、最後辺りでボロ泣きしてしまいました。完結してから読んでいるのでコメント出すのご迷惑かな?と思ったのですが、感動し過ぎて書いてしまいました…。 (2017年7月22日 22時) (レス) id: 35ef0e40d0 (このIDを非表示/違反報告)
LIKKA(プロフ) - しぃかさん» しぃかさん!またコメントくださるなんてとっても嬉しいです(o>ω<o)作間くんわたしも大好きです(TT) 本当にありがとうございました! (2017年5月30日 18時) (レス) id: 101efce4a6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:LIKKA | 作成日時:2017年5月6日 20時

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