【шτ】君は全部、忘れてる【赤】 (ページ9)

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11/24(水) ページ9

「おはよ、A」

一人で道を歩いていると、後ろから声がかかった。

「おはよう、きりやん」

「…隈、酷いけど。大丈夫なの？」

「まぁ、大丈夫」

メイクして鏡でちゃんと確認してきたというのに、バレるのはやはり幼馴染だからなのか。

精一杯笑ってみたが、バカ、という言葉と共にデコピンをされる。額を抑えながら、先を歩く彼について行く。

「今日は二限から？」

誰、を指す部分は無かったが、きっとぶるっくのことを話しているのだろう。

「同じ講義？」

頷くと、また質問される。それにも頷くと、きりやんは小さくため息をついた。きっと今日も忘れているかもしれない、と思っているのだろう。

言わないのはきりやんの優しさだと分かっているけれど、私もなんとなく察している。

二度あることは三度ある。

だから眠れなかったのだ。

「俺らの中で同じ講義取ってるやつは？」

「…多分、スマイルくん」

「おけ」

そこで会話は途切れ、無言で大学への道を歩く。

どうして彼は私のことを忘れてしまうのか。
原因はきっと、彼が二日の間見ているという、過去の夢なのだろうと思っている。

けれど、それを見ている理由も、見ないようにする方法も分からない。

これから毎日彼に忘れられるのかと思うと、ゾッとした。

思い出してくれるだけ良いのかもしれないが、思い出した後に楽しい時間を過ごす分、翌朝の不安と、忘れられていると分かった時が辛くなる。

「危ない！」

そんな声と共に手を引かれた。慌てて前を見ると、赤信号だった。

ほっと胸を撫で下ろし、お礼をしようと振り向いて驚く。

きりやんの表情は、酷く歪んでいた。

「なんで、そんな、顔」

「…気をつけてよ」

きりやんは、ふいと顔を逸らし、ぼそりと言葉を零す。ごめん、としか言えなかった。