月 日( ) ページ23
2月14日(月)
最近、よく同じ夢を見るんだよね。
え、そんなに気になるの？あんまり話したくないんだけど、話してあげる。
僕が、Aのことを忘れる夢。そんなこと、ある訳ないのにね。
夢の中の僕は、また夢を見るの。
何言ってるかわかんないって？
僕も不思議だと思うけど、聞いてよ！
朝起きたら、Aのことを忘れてる。
そんな毎日を過ごして、夢の中の僕は、Aが事故に遭う夢を見る。
それで、その次の日、Aが事故に遭う。
目の前で見る日もあれば、病院からの電話で知る日もあって。
それで、目が覚めるの。ここ最近、毎日。
不思議だよね。
「…最後だけ、嫌にリアルなんだよねぇ」
「…そう」
え？ほんとにリアルじゃんって？
「…そう言うのは、言わない約束なんだよ」
「ぶるっく？なんか言った？」
「ううん。早く、行こ」
なかむの水色の瞳が、心配そうに揺れた。
「ぶるっく」
「あ、きりやん」
「どこ行くの？」
「どこだと思う？」
そう言って口角を上げてみせる。
自然にやったつもりなんだけど、目の前のきりやんも、隣にいるなかむも顔を歪めたから、下手くそだったみたいだ。
「…いってら、気をつけろよ」
「うん。ありがとう」
そこから目的地までの記憶はあまり無い。
気づいたら、なかむと別れて、いつもいる場所にいた。
開いた窓から風が吹き抜ける。ベッドの隣に置いてある椅子に腰を下ろす。
「忘れてるのは、Aの方じゃないの？」
僕の声だけが部屋に響く。
あの夢は、一体なんなのか。僕が、何かを忘れたとでも言うのか。
もしそうだったとしてもさ、僕はね、君の方がよっぽど酷いと思うんだ。
家族のことも、友達のことも、僕のことも。
「…君は全部、忘れてるよ」
「言ったじゃんか。……僕、は、」
君が二十歳になったら、プロポーズするよって。
大学二年生、春。
明日は、Aの誕生日。
君は全部、忘れてる。
おわり
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