【шτ】君は全部、忘れてる【赤】 (ページ18)

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11/26(金) ページ18

大学に行こうと家を出ようとして、日付に気づく。

ぶるっくの誕生日が近づいていることを、一連の騒動ですっかり忘れていたのだ。

プレゼントを買いに行かなくちゃ。

ぶるっくがいつ、思い出せなくなるかはわからない。

けど、今はまだ、大丈夫なはずだ。
昨日のぶるっくの言葉が、私にそう思わせてくれた。

「おはよう」

「あ、おはよ、A！」

大学に着き、一限目の教室に入って、友人に声を掛ける。すると、彼女はホッとした顔をした。

「なんか、スッキリしてるね」

「…そう？」

まだ終わってないんだけど、と心の中で苦笑する。それでも、確かに昨日より心は軽かった。

「最近、お昼どこで食べてるの？カフェ？」

「あーうん、そう」

「彼氏とでしょ？」

「まぁ、そうだね」

「なんでそんな曖昧なのよ」

だって、曖昧に答える他ない。

まだ何かあるの？と不安そうに聞かれ、大丈夫、と答えかけた時、ガラリとドアが開いた。

「朝井さん、今日の昼、いつものとこね！」

「…A、どういうこと！？」

なかむくんの明るい顔を、今回ばかりは恨んだ。

「昨日、結局デートしたの？」

「え？うん」

「ふーん」

これまでと同じように、ぶるっくは私のことを忘れていたが、涙が出ることはなかった。皆が私に意識を向かないようにしてくれているのもあるし、慣れてしまったのもあるかもしれない。けれど、それだけではないことが自分でわかっていた。

ぼそり、ときりやんが何かを呟く。何と言ったのかはわからなかったけれど、酷く安心した顔をしている気がした。

それと同時に、ぶるっくが初めて私を忘れた日、大きな声を上げていたきりやんの姿を思い出す。

自分のことで精一杯だったけれど、本気で心配してくれてたんだと、やっと気づいた。

「…ありがとう、きりやん」

「ん？なんか言った？」

「ううん、なんでもない」

きりやんのためにも、ぶるっくには思い出してもらわなきゃ。

ぶるっくの見た夢は、昨日のデートまでの夢だった。

「…多分だけど、明日にはもう、大丈夫じゃないかな」

「「えっ！？」」

なかむくんが呟いたその言葉に、私とぶるっくは大声を上げる。直後、きりやんの手がなかむくんの頭を叩いた。

「いった、何すんの、やん」

「お前が何知ってんのか知らんけど、期待させるようなこと言うな」

「それもそうだね」

「…うぅ。わかったよ」

きんときくんにも頷かれ、なかむくんは肩を落とす。

きりやんの言うことも最もだ。ぶるっくも不満そうに口を尖らせていたが、静かに頷いた。