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「…これ、だ」
棚を漁っていた彼が、そう声を漏らした。覗き込んでみると、それは私が熱を出した時にも渡された、所謂万能薬。
「これで、いいの」
「うん。十分だ」
彼の瞳に、また光が戻ったのを見て、私はホッとする。そして、彼を屋敷の外へ連れていく。
「…ごめん。俺、君に色んなこと言ったのに」
彼はそう言って、頭を下げる。私はゆっくりと首を横に振った。
「後悔しなかったのは、君のおかげだから」
私はどんな顔をしていたのだろう。彼はゆっくりと目を見開いて、そっか、と言った。
「…俺さ、今倒れてるその友達も含めて、いつか、この国を変えてやろうって話してるんだ」
「いつか、その時が来たら、迎えに来るから」
その先を、彼は言わなかった。けれど、私は首を縦に振る。彼の口が小さく弧を描いて、開いた。
「ねぇ、名前、教えてよ」
「…A。お母様が付けてくれたんだよ」
「…そっか。良い名前だね」
彼の声が、瞳が、酷く優しくて、視界が滲んだ。溢れ出そうになるものを堪えて、私は口を開く。
「君は？」
「俺？俺はね、きりやん」
「きりやん」
「そう。じゃあ、またね」
「…うん。また」
駆けていく彼の後ろ姿を眺める。抑えていた涙が、次から次へと流れた。
薄らと目を開ける。いつの間にか寝てしまっていたらしい。机の上に置きっぱなしにしてしまっていたトレーを元の場所に戻しながら、私は懐かしい夢を見たな、と思う。
きりやんと別れた次の日から、私は外に出れなくなった。窓は開けられなくなったし、ドアには外鍵が付いた。始めの頃なんて、見張りがいたくらいだ。
彼は、いつ迎えに来てくれるのだろう。彼らは、いつこの国を変えてくれるのだろう。
私には、何もできない。この鳥籠の中から出ることすら叶わない。
もしかしたら、何かすべきなのかもしれない。けれど、きっと、彼ならば。彼の信じた、彼があんな顔をしてまで救いたかった、仲間がいるのであれば。きっと。
ざあっと、草木の揺れる音がして、髪が揺れた。
―――窓は、開かないはずなのに。
「お待たせ」
「…遅、い」
黒を大きくはためかせ、彼は笑う。
出会ったあの日と同じように、彼の髪は、光を浴びて輝いていた。
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空羽(プロフ) - 霧華さん» 実はこの間、雷が鳴った時にこのお話を思いついたんです笑ほっこりして頂けて良かったです！ただでさえこんなご時世なのに、天気が悪いと更に気が滅入ってしまいますよね…こちらこそいつも読んで下さりありがとうございます！マイペース更新ですが気長にお待ち下さい。 (2020年4月20日 13時) (
レス) id: 295f716bc6 (このIDを非表示/違反報告)
霧華 - 最近天気荒れてること多くて怖かったので雷のお話見てほっこりしました…！素敵なお話いつもありがとうございます！！無理せず更新頑張ってください(*´ `) (2020年4月20日 10時) (レス) id: daf330d400 (このIDを非表示/違反報告)
空羽(プロフ) - みあさん» みあさんありがとうございます！マイペースに更新していきますので、気長に待っていて下さると嬉しいです。よろしくお願いします！ (2020年3月12日 19時) (レス) id: 295f716bc6 (このIDを非表示/違反報告)
みあ - 続編おめでとうございます！これからも更新楽しみにしています(*^-^*) (2020年3月12日 14時) (レス) id: 6bfd7b5c61 (このIDを非表示/違反報告)
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