【шτ】幸せの欠片【短編集】 (ページ9)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:51,677 hit

寝かしつけ/br ページ9

「ぶるーくってさぁ、なんでそんな寝てるの？」

放課後、教室で眠っていた幼馴染のぶるーくを叩き起す。

夕日に照らされた通学路を歩いている途中、ずっと気になっていた質問をした。

「え〜…なんでって、眠いからだよ」

至極真っ当な答えだ。

「ごめん、質問変える。なんでそんなに寝れるの？」

彼は少し考えてから答えた。

「それも眠いからじゃない？あと寝るのが好きだよ、僕は」

「ふーん、なるほどね」

寝るのが好き、というのはあまり理解できない。私にとっては。

「Aは？」

「私？」

「うん」

昨日も、私は1時間寝たか怪しい。一昨日も、その前の日も、その前の日も。

「私は、大っ嫌いだよ」

そう答えると、ぼそりと彼が「人間じゃない」と呟いた。

本人は多分心の中で言ってるつもりなんだろうな。漏れてる漏れてる。

「声に出てるよ」

「え、まじ？」

「うん。思いっきり出てた」

「そっかぁ〜…でも、ほんとにそれは人間じゃないよ」

「失礼な」

ちょっとだけ、彼を睨む。でもその青い目は、心配の色に変わっていた。

「…好き嫌いに関わらず寝た方がいいと思うよ？僕は」

「やだよ。だって、やりたいことできないし、それに」

「それに？」

こんなこと言ったら笑われかねない。

高校生にもなって。

「…笑わないでよ」

「笑わない」

「ほんとに？」

「ほんとに！」

彼がじっとこちらを見つめるので、言わざるを得ない。そっとため息をついてから、私は言った。

「…なんか、闇に飲まれそうじゃん。怖いの、それが」

そう言うと、彼は少しだけ目を丸くして、うーんと唸る。

そして、次に発せられた言葉は、私を驚かすには充分だった。

「……ねぇ、今日の夜泊まってかない？」

「えっ」

それこそ、高校生にもなって、と思う。また違う意味だけど。

「な、なに、急に。別に、いいけど。私、一人暮らしだし」

……まぁ、満更でもない。付き合ってる、訳じゃないけど。

「じゃあ決まりね！待ってるから！」

またあとでー！と言いながら、彼は家へ走っていく。

しばらく彼の後ろ姿をぽかんと眺めていたが、暗くならないうちに行かなければ。
そう思って、私も帰路を急いだ。

彼にベッドに引きずり込まれ、抱きしめられて眠ったのは、その夜の話。