56:彼のことは ページ6
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なに、それ……。ウォヌ先輩がどれだけソラのお姉さんのことを想おうと、その2人には、彼が入る余地は全くないんだ……。
どれだけ辛かっただろう。悲しかっただろう。……そして、彼女への想いを捨て切れていない先輩は……今、どれだけ苦しんでいるんだろう。
『 ……A… 』
気付けば、涙が溢れていた。耐えていたのに。…今は、私が泣く場面じゃないのに。
「 ……ごめんっ… 」
謝った私の声は、とても震えていた。俯いた拍子に、拳にしていた手に涙が一粒落ちた。
「 ……私、先輩に言ったの… 」
涙は止まることを知らなくて、だけどこれ以上、目の前の2人に心配を掛けたくなくて。せめてと思い、自分の顔が見えないよう、俯いたまま今の気持ちを吐き出す。
「 …私達、友達になりましょうって 」
『 …友達?』
「 うんっ…。好きな人のことを思い出してる先輩のこと、見てられなくて… 」
M『 …でもA、好きって気持ちがある以上、友達になんかなれないだろ 』
困惑したようなミンギュくんの言葉は、ほんとにその通りで。反論することもせず、私は頻りに、首を縦に振ってみせた。
「 …良いのっ……私、先輩のこと好きだけど…先輩は私の気持ちなんて、知らなくて良いし、私も、伝える気なんてないのっ… 」
『 A、それって…… 』
拳を解き、掌で、目を濡らす涙を拭う。乱暴な手つきだという自覚はあったけど、今はそんなこと、どうでも良かった。
しっかりと前を向いて、心配しているような、戸惑っているような表情を浮かべた2人を、しっかりと見据える。
「 …想うだけで良いの、先輩のことは 」
『 …!』
「 言ったでしょ、私は先輩とどうこうなりたいわけじゃないって。…ただ…私が今想いを伝えることも、…もしかしたら、先輩を好きになったってことすら、苦しめちゃうかもしれない。……だったら私は、この気持ちをずっと自分の中に留めとく。…そうすることで先輩の近くにいられるなら、それで、良いの 」
本心だった。だけどどこか、自分に言い聞かせるように、私はそう言い切ってみせた。
出来るだけ悲しい感じは出さないようにと気を付けて言ったのだけど……2人の表情は、全くと言って良いほど、晴れなかった。
『 …Aはほんとに……それで良いの…?』
ソラの目は、揺れていた。声は、震えていた。その様子から、ほんとに私のことを心配してくれているということが伝わって来て、胸がぎゅっと締め付けられた。
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アオコ(プロフ) - ハローさん» お返事遅くなってしまいほんとうに申し訳ないです…!コメントありがとうございます!これからもよろしくお願い致します…!!!! (2020年11月21日 1時) (レス) id: ad766077a4 (このIDを非表示/違反報告)
ハロー - 続き楽しみにしてます (2020年11月14日 22時) (レス) id: 5db7b589d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオコ | 作成日時:2020年10月18日 18時