２ ページ29
.
「スンチョル」
宿舎のリビングにいたオレをAが小さな声で呼ぶ。
近くのソファに座っていたウォヌがちらりと横目でAを見て、またテレビに目を戻した。
ウォヌには気付いてるんだろうなぁ、気付かれてもどうすることも出来ないけど。
そのまま去っていくAを追って自室に戻る。
部屋に入るとオレに「ごめんね」と笑って、Aが背中を向けた。
Aがいつも身につけている硬いゴムのようなサポーターは、背中側にファスナーが付いている。
「手を後ろに回すと痛くて下ろせなかった」のだと、困ったようにAはオレへこっそり言った。
頭の中にカレンダーを繰り出して日を数える。
Aの着替えの度にこのファスナーを下ろすようになってから、今日でちょうど七日目だ。
「もうだいぶ良くなったんだよ」
「そうか」
「背中の上まで手が届くようになったから、明日からは大丈夫だと思う」
「良かったよ、大事にならなくて」
「ウォヌから『ホシがすげえ怒ってたぞ』って脅されたから気合入れて治したんだよ」
「脅しじゃねえぞ、実際アイツ結構怒ってたからな」
「そうなの？オレには何も言わなかったんだけど」
「陰では心配してるんだよ」
「ありがたいね」
出来るだけ誰にも気付かれたくないと言ったのはAだ。
だからオレ以外に頼むつもりは無いとも言っていた。
まあ確かに、率先して騒ぎそうなメンバーは何人かいる。
世話にかこつけて遊ばれるのは誰の目にも明らかだしな。
ジジジと、やけに重いファスナーを下ろしていく。
黒くて厚みのある生地の下から出てきたのは、もう見慣れた白いだ。
一年365日ずっと表に出すことも無ければ、陽の光に当たることもない。
不健康そうに見えるわけではないけれど、最初に見た時はなんだか頼りなく思ってしまった。
ペタリと肩甲骨に手を置くと、Aの背中が揺れる。
「オレ、Aのファスナーを下ろす係になってからさ、」
「ん？」
「言おうか言うまいか迷ってたんだけど……言ってもいい？」
「良いよ」
「お前、背中には傷が無いんだな」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1552人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
せの(プロフ) - ありさん» ぜひぜひ！ありがとうございます！頑張ります。 (2019年7月15日 9時) (
レス) id: 350915b2b6 (このIDを非表示/違反報告)
あり(プロフ) - お返事ありがとうございます！二次元にあまり詳しくないものである程度予習をしてから読ませて頂きます！ついに最終章といったところですね！頑張って下さい！！ (2019年7月12日 15時) (レス) id: ab6122f7a0 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - ありさん» ありがとうございます！二次元の方から来たのでご期待に添えるか解りませんがプロフの方にURL張りました。お暇なときにどうぞ (2019年7月10日 19時) (レス) id: ce3e37b412 (このIDを非表示/違反報告)
あり(プロフ) - 今までに無いタイプのお話にリアルな描写がとても好きです!どんな結末を迎えるのか楽しみにしています(’-’*)因みにせのさんのTwitterやホームページはありませんか？(あまりに好きすぎて他のお話があれば読んでみたいのですが...) (2019年7月10日 14時) (レス) id: ab6122f7a0 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - あずささん» ありがとうございます！頑張りますね (2019年7月9日 8時) (レス) id: cda4c47062 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せの
| 作成日時：2019年6月23日 0時
