男装生活とその日常について３ (ページ31)

今日:3 hit、昨日:131 hit、合計:701,443 hit

７ページ31

.

「A？」

言いようのない不安に襲われて名前を呼ぶ。

その瞬間、Aの瞳に水の膜が張り、瞬きをすればとうとう大粒の涙がこぼれ落ちてきた。

『なんで！？』『このタイミングで！？』と出ていきそうになる言葉を喉元でぐっと押さえつける。

何がその涙の引き金になってしまったのか。
たった今、全てが分からなくなってしまったからだ。

口をきゅっと結ぶ。

出来ることなら僕も泣いてしまいたい。
一度だけ深呼吸して考える。

Aが泣き出した原因はいったいなんだろう。

どれだけ思い返しても、僕が動揺してしまっているせいかそれらしい答えは出てこない。

表情を無くしたAの頬に涙がポロポロと落ちていく。

手を伸ばして拭うと、やっとAが短く息を吐き出した。

僕の手を顔から離し、服の袖で涙の線を拭う。

「ごめんジュニ、びっくりさせたよね」

「……うん、でも大丈夫だよ」

「ちょっと待ってね」

「外、出てた方がいい?」

「いや……いや、いてほしい」

「そっか」

「ジュニ、誰に聞いたの？……誰にも言ったことがないと思うんだけど」

「そうなの？シュアヒョンがそう言うから、Aが言ったんだと思ってたんだけど」

「……ああ、そっか、あの人はエスパーだからなぁ」

潤んだ目を逸らしたAが、深く息を吸い込んだ。

もう一度僕の顔を見たAが「似てないよ、顔はね」と目を細めて言う。

「じゃあ性格が？」

「そう、そうなんだ。昔のオレは……姉の弟は、ジュニによく似てたんだ」

「僕に？」

「うん……ジュニに似てて、」

「うん」

「恥ずかしがり屋なくせにやけに積極的で、好奇心が強くて、天真爛漫で、いつも優しくて、なんでも出来て、」

「A……？」

「ああ、どうしよう、どうしよう、ジュニ、」

堪えられないようにAが浅く息を繰り返し、その口元を両手で覆う。

Aの瞳からはまたポタポタと涙が流れ始めた。

どうすれば良いのか解らず彷徨わせた手を、Aの背中に置いて、落ち着かせるようにゆっくりと撫でる。

こうするしか考えが思いつかない。

.