男装生活とその日常について３ (ページ30)

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視界だけを動かして部屋を見渡して確認する。

やっぱり家族の写真はどこにも見当たらなかった。
この作業室にも無ければ、勿論宿舎にも無い。

家族の写真自体、誰も見たことがないらしい。

シュアヒョンもスンチョリヒョンもだ。

両親の話自体は僕も聞いたことがある。出会ってすぐの頃だったかな。
そういえば、お姉さんの話をする時とは正反対だった。

自分の抱えた傷を見せないように、隠すように。
心を揺るがせることなく、平常心でいるように努めていた。

それは、誰がどう見たって、痛々しい話し方だったのを覚えている。

ミンハオが「最近よく両親の事を話してくれるようになった」と言っていたけど、どうやら写真を飾れるほど傷が癒えたわけではないらしい。

それにしてもなんだか妙だ。

あんな風にお姉さんの事は軽口に乗せて、割り切ったように話すくせに、姉弟写真すら無いのはどうしてだろう。

まあ、それを僕が考えても……と、Aと一緒になって天井を眺めていると、頭の中に突然シュアヒョンがぴょこんと現れた。

目を細めて僕に手を振る。

そうだそうだ、部屋を出る前に良いことを聞いたんだった。

「ねえねえ、A」

「ん？」

「その人の弟が……お姉さんの弟が小さかった頃、ムンジュンフィって子に似てたって聞いたんだけど本当？」

ふふっと笑いながら、回りくどい表現でからかうように尋ねると、背もたれに寄りかかっていたAの背中が浮くのが視界の端に映った。

視線を追いかけてAの方に顔を向けると、目を大きく見開いてまっすぐに僕を見つめている。

まるで呼吸を忘れてしまったように、Aの動きは止まっていた。

瞬時に、ひどい焦燥感が僕の身体に走っていく。

もしかして踏み入れてはいけない所に足を突っ込んでしまったんだろうか。

焦りながら、自分が何を言ったか思い出す。

何をそんなに驚くことがあるのか、僕が聞いたのは他でもないAについての事なのに。

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