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「A?」
「ごめん、ちょっと思い出しちゃって、ごめんね、反射的に」
「あ、悪い……」
「ごめんね、スンチョル」
「オレと二人になるのも怖いか?」
「ううん、それは平気。心配しないで、大丈夫だよ」
さっきから同じような言葉を繰り返すAの姿はひどく痛々しく見えた。
大丈夫だと言ったのはどの口だ。
まさかAも男に襲われるだなんて思っていなかっただろう。
オレだってメンバーがこんな事に巻き込まれるなんて思いもしなかった。
Aが会議室を覗き込んで、誰もいないことを確認したのかオレに手招きをする。
勝手に局の会議室を使って……とは思うけど、緊急事態だし許してもらおう。
パチリと電気をつけると、Aが息を吐き出して机に手をついた。
シャツの袖を捲り、紫色になった手首を確認するように曲げたり伸ばしたりしている。
表情から痛くないようだとは解るけれど、腹の奥の方で激しい怒りがぐらぐらと沸き上がってしょうがない。
それでも、ここでオレがどれだけ激昂したってAが困るだけだ。
どうにかそうやって心に折り合いを付け、とめどなくこみ上げてくる感情を押し殺した。
「いったい何があったんだ」
「えーっと……」
「ゆっくりでいいから、話せるか?」
そう言って頷いたAの手を握る。
やけに冷えた指先をしていた。
あの場では肝が据わりすぎた発言をかましていたけれど、ずっと緊張状態だったんだろう。
Aがぼんやりとした口調で話し始める。
「ジュニと自販機に行った帰りに、中年の男の人に声を掛けられて。作曲関係の、仕事の話で呼んる人がいるって言うから、ジュニ帰してその人に着いて行ったら、その先が地下の倉庫で、」
ああ、やっぱりそうだった。
オレが着いていけばよかったとか、ジュニが一人で帰ってきた時探しにいけばよかったとか、今更じゃどう考えたって遅すぎる後悔ばかりが頭を過ぎっていく。
別にAを一人にしたジュンが悪い訳じゃない。
オレだって同じ立場なら先に控室に戻っていただろう。
むしろ、探しに行くか迷ったジュンに安心させるようなことを言ったオレに非がある。
今そんな事をAに弁解してところで、それは何の意味も持たない。
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せの(プロフ) - ちょんちょんささん» ありがとうございます! (2019年6月6日 10時) (レス) id: ce3e37b412 (このIDを非表示/違反報告)
ちょんちょんさ(プロフ) - このお話がとても大好きです!!続編も楽しみにしてます^ ^ (2019年6月4日 11時) (レス) id: bf015467db (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - うゆさん» ありがとうございます! (2019年6月3日 10時) (レス) id: ce3e37b412 (このIDを非表示/違反報告)
うゆ(プロフ) - 更新ありがとうございます!毎話毎話、素敵すぎて心がぎゅーっとなります( ; ; )そのままずっといっしょに幸せに暮らしてくれーーーーー( ;∀;) (2019年6月1日 15時) (レス) id: 81aa380229 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - ゆかさん» ありがとうございます! (2019年5月31日 16時) (レス) id: ce3e37b412 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せの | 作成日時:2019年5月20日 10時