男装生活とその日常について２ (ページ39)

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ベッドの上でごろりと体制を変えると、無機質で真っ白いシーツがぐしゃりとよじれて波を作る。

『ミンハオ、今日はスケジュール全部終わった？』

「うん、奇跡的にあとは寝るだけ。明日は５時起きだけど」

『そっか、良かったね。ハオは１日おつかれさま』

「ありがとうヒョン」

『あと４時間……そっちだと５時間か。良い子はもう寝る時間だけど？』

「寝よう寝ようとは思ってるんだけど、短い睡眠時間に身体が慣れてるせいか眠れなくて」

『あったかいもの飲んだ？』

「うん」

『布団に入ってる？』

「入ってない」

『まずはそこからだね』

Aヒョンのくすくす笑う声を聴きながら、重い身体を起こしてもぞもぞとベッドの中に潜り込む。

ひんやりとしたシーツに熱が吸収されるこの瞬間は嫌いじゃない。

寝具が少しずつ、体温と同じ温度に変化していく。

『子守歌でも歌おうか？』

「英語の？」

『ああ、英語もあるよ。なんでもある』

「なんでもって何？」

『君は知らないかもしれないけど、作ろうと思えば即興で作れる職業に従事してるんだよね』

「そうだった」

『でも、オレの子守歌は効き目がないみたいだからダメかも』

「どうして？」

『この前歌ったら子供が泣いちゃって』

あはは、と消え入りそうな声でAヒョンが苦笑いをした。

ショックだったんだろう。
歌のプロなのに、子守歌のプロにはなれなかったらしい。

それにしてもヒョンはどこで子守歌を歌ったんだろう。

収録で子供と接する機会でもあったんだろうか、それともプライベートだろうか。
いや、プライベートはないか。

ヒョンが幼子を抱いて歌う姿を見たことはないけれど、なぜだか容易く想像できてしまう。

そして、ふと気がつく。

今も耳に聞こえてくる柔らかい声や、のどやかで温和な表情、物腰に棘は無く、自分の事を顧みず他人に身を捧げるあの性格。

接するたびに、どこかで知っているような気がしていた。

そういえばヒョンの優しさは、女の人が持つ優しさに似ている。

小さい頃にお世話になったことのある、もうほとんど顔も覚えてないお姉さんの微笑みが頭をよぎっていく。

顔も声も行動も同じところなんて一つも無いのに、なんとなくその存在を思い出してしまうのは何故だろうか。

きっと幼いながらに恋をしていた、初めて好きになったあの人に。

よりにもよってAヒョンが重なってしまったのだ。

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