男装生活とその日常について２ (ページ29)

今日:84 hit、昨日:406 hit、合計:874,077 hit

９ページ29

.

庭で遊ぶ子供たちに、表情を柔らかくするAの顔を眺める。

Aもああやって遊んでいたんだろうか。
そう思うとなんだか切なくなって、目線を手元のマグカップに戻してしまう。

「縁起が悪いから、更地にでもなってるんじゃないかと思ってた」

「A、」

「ごめんねシュア、怒らないで」

「冗談でも言っていい事と悪い事があるんだけど」

「まだあると思ってなかったから、つい本音が……」

「最悪の事態ばっかり考える癖、そろそろどうにかならない？」

「期待して生きるのは辛いんだよ」

肩をあげておどけたようにそう言う。

こればっかりは返す言葉が見つからない。

Aがマグを両手で包んで表面に息を吹きかけた。

「シュアが一緒じゃなきゃ、多分ここまで来れなかったと思う」

「一人で来ようと思ったことはないの？」

「想像だけならたくさんしたよ。でも、いざとなると動けなくなるんだ」

「そう」

「今回も何回か戻ろうとしたんだけど、誰かさんが手を離してくれないから」

「離さなくて良かった」

「ありがとう、シュア」

ようやく僕の目を見たAが、微笑みながらそう言った。

僕はそれに答えず、Aが住んでいた街並みを見下ろす。

過去の僕が過去のAに出会うことは叶わなかったけど、今の僕には今のAがいる。

きっとこれで良いんだ。

それから日が暮れ始め、Aが『みんなの所に帰ろっか』と立ち上がるまで、僕たちはたくさんの話をした。

笑いあって、たまに静かになったりして、くだらない事を口に出し、また笑う。

何を話していたのかも思い出せないほど、他愛のない話ばかりを繰り返して店を出た。

元来た道に背を向けて歩き出すと、落ち始めた夕日が僕らを赤く染める。

手を繋いだ僕たち二人の影は、後ろにずっと長く伸びていった。

.