8 ページ28
.
お姉さんが転んで大けがをしたと言う坂道を登りきると、Aが「はあ」と息を吐き出してゆっくりと遠くに目線をやり、景色を見渡した。
「ちょっと休憩しようか、そこにドーナツ屋があるし」
「Aがいた時もあった?」
「ううん、初めて見た。ここら辺はもっと閑散としてたのに」
看板が掛けられたドアノブに手を回して押し開ける。
小さい店にベルの音が響き、甘い匂いが僕たちと入れ替わるように外へ流れていく。
その店は二階がカフェスペースになっていた。
コーヒーとドーナツをトレーに乗せて階段を上り、窓際の席へ座る。
僕たち以外にお客さんはいない。
Aは窓の外を眺めながら、ドーナツを一口齧った後に、熱いコーヒーに息を吹きかけて啜る。
いつもは飲まないのに、今日はそういう気分らしい。
「シュア」
「なに」
「あそこの家見える?」
「どこ?」
Aの差した指先を辿る。
この店から少し離れた向かい側に、赤レンガのような色をした屋根を被る白い家が見えた。
青い芝が引かれた庭には子供が二人で追いかけっこをしている。仲がよさそうだ。
「あの家が、オレの家だったところ」
「……人手に渡ってたの?」
「必要なものだけ送ってもらって全部処分したんだ」
「そうだったんだね」
「びっくりしたのは、」
「うん」
「家がそのままの形で残ってたこと」
Aが眉を下げて目を細める。
その顔が、今にも泣き出しそうに見えた。
伸ばしかけた手を引っ込め、どうすれば良いのだろうかと考える。
おそらくAは泣かないだろう。
こんなにも泣いてしまいそう顔をしているのに、なぜだかそんな確信めいたものが頭に浮かぶ。
そう言えば、随分とAの泣いた顔を見ていない気がする。
最初のころ誰か他の人の事で泣くことは少なからずあったけど、自分の事で泣く事は見たことが無い。ようやく今気が付いた。
.
1616人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SEVENTEEN」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
せの(プロフ) - 月さん» ありがとうございます! (2019年5月15日 16時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
月(プロフ) - なんか、言葉の使い方が素敵過ぎます。 (2019年5月14日 23時) (レス) id: 609dad9df5 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - 神田ニエル。さん» ありがとうございます! (2019年5月13日 15時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
神田ニエル。 - シュアと夢主ちゃんの関係が素敵で禿げますw (2019年5月12日 0時) (レス) id: 4450166156 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - rinさん» ありがとうございます! (2019年5月11日 14時) (レス) id: fc9298decc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:せの | 作成日時:2019年5月4日 20時