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お姉さんが転んで大けがをしたと言う坂道を登りきると、Aが「はあ」と息を吐き出してゆっくりと遠くに目線をやり、景色を見渡した。





「ちょっと休憩しようか、そこにドーナツ屋があるし」

「Aがいた時もあった?」

「ううん、初めて見た。ここら辺はもっと閑散としてたのに」





看板が掛けられたドアノブに手を回して押し開ける。

小さい店にベルの音が響き、甘い匂いが僕たちと入れ替わるように外へ流れていく。





その店は二階がカフェスペースになっていた。


コーヒーとドーナツをトレーに乗せて階段を上り、窓際の席へ座る。
僕たち以外にお客さんはいない。



Aは窓の外を眺めながら、ドーナツを一口齧った後に、熱いコーヒーに息を吹きかけて啜る。

いつもは飲まないのに、今日はそういう気分らしい。





「シュア」

「なに」

「あそこの家見える?」

「どこ?」





Aの差した指先を辿る。


この店から少し離れた向かい側に、赤レンガのような色をした屋根を被る白い家が見えた。



青い芝が引かれた庭には子供が二人で追いかけっこをしている。仲がよさそうだ。





「あの家が、オレの家だったところ」

「……人手に渡ってたの?」

「必要なものだけ送ってもらって全部処分したんだ」

「そうだったんだね」

「びっくりしたのは、」

「うん」

「家がそのままの形で残ってたこと」





Aが眉を下げて目を細める。



その顔が、今にも泣き出しそうに見えた。
伸ばしかけた手を引っ込め、どうすれば良いのだろうかと考える。


おそらくAは泣かないだろう。
こんなにも泣いてしまいそう顔をしているのに、なぜだかそんな確信めいたものが頭に浮かぶ。




そう言えば、随分とAの泣いた顔を見ていない気がする。


最初のころ誰か他の人の事で泣くことは少なからずあったけど、自分の事で泣く事は見たことが無い。ようやく今気が付いた。


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せの(プロフ) - 月さん» ありがとうございます! (2019年5月15日 16時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - なんか、言葉の使い方が素敵過ぎます。 (2019年5月14日 23時) (レス) id: 609dad9df5 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - 神田ニエル。さん» ありがとうございます! (2019年5月13日 15時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
神田ニエル。 - シュアと夢主ちゃんの関係が素敵で禿げますw (2019年5月12日 0時) (レス) id: 4450166156 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - rinさん» ありがとうございます! (2019年5月11日 14時) (レス) id: fc9298decc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:せの | 作成日時:2019年5月4日 20時

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