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どうやら奇跡は僕の知らないところで起こっていたらしい。
教会を見上げるAの顔を見て、何故か一瞬だけ息が詰まって苦しくなった。
「『親が同じ国の出身じゃないか』って、一緒に来てた神父様が言うから話しかけようと思ったんだよ。シュア、やたらと綺麗な顔してたし」
「そこなの?」
「ここらへんはアジア系が少なくてね。『友達になれるんじゃないか』って」
「それで結局、僕に話掛けなかったんでしょ?」
「ピアノのレッスンが入ってたんだよ、二人とも。先生がジフナより怖いんだ」
「……ああ、それは仕方ないね」
「終わってから走って戻ったんだけど、残念ながら教会に聖歌隊の子は誰もいなくて」
「そっかぁ……」
すれ違うどころか、どうやら背中を追われていたらしい。
少しだけ足の力が抜ける。
きっとAと手を繋いでいなければその場にしゃがみ込んでいただろう。
「お姉さんも一緒だったの?」
「あの人はシュアの事『悪い子だったらどうするの』って消極的だったんだけど、オレが手を引いたんだ」
「今はともかく、昔の僕は良い子だったのに」
「シュアは今も良い子だよ。……いや、良い人か。あの人、昔から交流を広げるのが得意じゃなくてね」
「今のAみたいに?」
「あの頃の僕は、姉と違って積極的だったんだよ」
お姉さんを思い出したんだろう、そう言ってAがけらけらと笑う。
長年の答え合わせが出来たようで、なんだか満足そうだ。
僕はまだ置いてけぼりをくらった気分なんだけど。
「行こうか」とまた歩き出すから、未練がましく教会を振り返る。
僕の知らないところで、Aは僕の事を知っていた。
そう考えると、なんだかこの教会に後ろ髪でも引かれている気分になってしまう。
「もし、僕たちがピアノのレッスンをサボれてたら、いまこうやってシュアとは歩けなかったんだろうな」
「どうして?」
「さあ、そんな気がするから」
きゅっと繋いだ手を握り返すと、Aは同じ強さで握り返してくれた。
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せの(プロフ) - 月さん» ありがとうございます! (2019年5月15日 16時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
月(プロフ) - なんか、言葉の使い方が素敵過ぎます。 (2019年5月14日 23時) (レス) id: 609dad9df5 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - 神田ニエル。さん» ありがとうございます! (2019年5月13日 15時) (レス) id: 3e57787c43 (このIDを非表示/違反報告)
神田ニエル。 - シュアと夢主ちゃんの関係が素敵で禿げますw (2019年5月12日 0時) (レス) id: 4450166156 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - rinさん» ありがとうございます! (2019年5月11日 14時) (レス) id: fc9298decc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せの | 作成日時:2019年5月4日 20時