男装生活とその日常について２ (ページ18)

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「人間の感情は喜怒哀楽で出来てるから、一つでも欠けさせちゃダメなんだって。偉い人が言ってた」

「だからお前がヒョンをわざと怒らせてるって事？」

「お互い本気じゃないから、あくまで擬似的になんだけど」

「ハニヒョン拗ねたり落ち込んだりする事はあっても、確かにあんまり怒らないよな」

「ただでさえ根が優しいから怒れないのに、ポジション的にも感情的になれないからね。中間管理職の辛いところだよ」

「意外と考えてるんだな」

「意外とね」

Aが得意そうな顔をして、笑みを浮かべる。

それならば、Aはどうなんだろうか。

オレだってこいつが怒るところなんてほとんど、いや、一度だって見たことがない。

Aとハニヒョンは似ている。

性格も少し似ているし、グループ内の立ち位置もかなり似ているように思う。

繊細で、優しく、誰かに怒りをぶつける事はない中間管理職。

Aがそうハニヒョンを表した言葉は、そっくりそのままAへ戻っていったところで何の違和感も無い。

「じゃあ、お前の事は誰が怒らせてくれるの？」

思いがけず浮かんだオレの問いかけに対して、Aの思考が一瞬止まったかのように見えた。

目は「予想外だ」と言わんばかりに丸められている。

気付いてなかったのだろうか。そんな馬鹿な。
他人の事ばかりやたら詳しいくせに、なんでこんなに自分に対して無頓着なんだよ。

訝しげな顔をすると、Aが困ったように唸った。

「オレは、」

「うん」

「……怒らないっていうより、怒らせるような事をする人が周りにいないから」

「へえ」

「オレの前だとみんな、やたらと良い人になってくれるんだよ」

「さぞかし恵まれたグループにいるんだろうな」

「本当にね」

Aは自分が出した答えに納得したらしい。

境遇が境遇だけに、メンバーがAに気を使っているのは事実だ。
それをAも理解している。

悪い意味でもなければ、そういう類の話でもない。
結局のところ、他人に対して気を使わない人間なんてこの世に存在しない。

Aの場合は、それが他より過度に向けられてしまうのだ。

親や兄弟といった頼れる存在が人より極端に少ない分、『何か』が起きないように自然と周りがAの外堀を埋めてしまっている。

確かに、うちのグループは役割分担が出来すぎているらしい。

さながらAは「目の離せない子供」に近い。

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